10年越しの恋心-6
「宮木さんの恋路を邪魔しちゃダメだろ?俺だって話し掛けるの我慢してんのに……」
「は?恋路?」
(何だよ、それ…)
「そう!気付かねぇの?宮木さん、松田のことが好きだって、絶対っ!なぁ?」
そう言って田辺は、周りに居た他の奴らに、同意を求める様にその視線を走らせた。
「つうか、あの二人って付き合ってるんだろ?皆、噂してっし!」
「松田って、光輝が宮木さんに話し掛けると不満そうだもんな…絶対にアレはデキてるって!」
「だなっ!」
ここに居る全員が、それに賛同してうんうんと首を縦に振っている。
話を聞いているだけで、気が滅入る。
噂は噂だと割り切ろうとしても、なかなかそうも行かない。
その噂を裏付ける事実が多いからだ。
楽しそうに博也と話す聖の姿が頭の中から離れずに、様々な場面を思い出す度にどんどん憂鬱になる。
「宮木さん、こんにちは」
重い気分を抱えたまま、無理に笑顔を作って聖に声を掛けた。
放課後、聖がうちの教室に入って来たのとほぼ同時に挨拶をする…最近はいつもこの調子だ。
だが、必ずと言って良い程、博也が俺達の間に割って入る。嘘臭い笑みを浮かべて……
「こ、こんにちは…」
言うなり聖は、赤い顔をして俺から視線を外した。
だが、その仕草を『可愛い』と思う間も無く、博也が聖の頭を押さえ込む。
「宮木さんって、もしかして…光輝の事、嫌いなの?」
毎度のことながら、白々しい。
「それ以前に、光輝っていつの間に宮木さんと知り合いになったの?ちょっと前までは、全然興味無さそうだったのに……」
博也は聖にピッタリとくっ付いたまま、俺に挑発的な視線を向けてくる。
ただでさえ滅入っているのに、更に鬱になりそうだ。胸に鈍い痛みが走っている。
聖が…博也と密着してても、全然嫌がるそぶりを見せないから……
(やっぱり博也が好きなのか?もう二人、付き合ってるのか?って、“やっぱり”って何だよ……)
考えたくもないことをグルグルと考えていたら、自然と、足があの場所へと向いていた。
聖と再会した、あの公園…桜の花は完全に散ってしまって、今は眩い程の緑が広がっている。
俺は、あの日と同じ様に桜の木を見つめた。
「光輝君っ!」
どのくらい時間が経ったのか…気がつくとそこに、聖が立っていた。
「……聖?なんで…ここに?」
夢かと思った。
博也と一緒に居る筈の聖が、今、ここに居る筈がない。
「光輝君こそ…」
「俺は…この木が見たくなって……」
俺はもう一度、目の前の桜の木を見つめた。生き生きとした葉が、風に吹かれて揺れている。
「博也と…付き合ってんの?」
無意識の内に訊いていた。気になって気になって…仕方なかったこと……
「付き合ってなんか無いよ?どうしてそんなコト訊くの?」
「噂に…なってるから……」
「そうなの?どうして?」
「聖が…博也とばっかり一緒に居るから……」
「委員会の仕事をしてただけだよ?」
「……それだけ?」
「う、うん。それだけ」
「そっか…」
やっぱり夢なんじゃないかと思う。
でなければこんなに、俺が嬉しくなる様な返事ばかりが返って来る訳がない。