10年越しの恋心-5
「宮木さん、お待たせ!」
「あっ、松田君!」
聖が笑顔を博也に向けて、俺の前からスッと抜けて行く。
聖はあの作り笑いには気付いて…いや、博也が聖に向けているのは恐らく本当の笑顔だ。聖が気付く訳が無い。
博也が聖に向けているあの笑顔…それが自分の姿と重なった。
(何だよ、これ…)
「あれ?光輝…まだ残ってたんだ?」
さも今気付いたかの様に、急に博也が俺を見て言った。
穏やかな口調ではあるが、目が全く笑っていない。『早く帰れ』とでも言いたいのだろうか。
(白々しい…)
「居眠りしてたら遅くなった」
「ふぅん…そっか」
「ゴメンね、光輝君…引き止めちゃって……」
聖が申し訳なさそうにしゅんとする。
(聖のせいじゃ…ないんだけどな……)
「気にすんなって」
「でもぉ…」
「そうだよ、宮木さん。放課後に教室で居眠りしてる方が悪い!な、光輝“君”?」
博也が聖の肩に手を置きながら、俺に挑発的な視線を向ける。
聖はその手からパッと脱け出すと、また目に涙を溜めて、俺の前で深々と頭を下げた。
「ホント、ゴメンね。私が……」
「良いって。早く家に帰りたい訳じゃねぇし、俺が好きで寝てたんだからさ」
放っておけば聖の口から謝罪の言葉が次々と出てきそうだから、俺は聖の言葉を遮って言った。
聖が謝る必要なんてどこにも無い。
でも聖は、まだ申し訳なさそうな表情を浮かべている。
この様子だと、俺は早々に立ち去った方が良さそうだ。
(仕方ない、今日のところは帰るとするか。聖を博也と二人っきりにするのは癪だがな……)
「じゃ、俺は先に帰るよ」
俺は簡単に荷物をまとめて、鞄を持ち上げた。
「聖、またな」
「う、うん。ばいばい」
「じゃ〜ねぇ、光輝〜!」
俺に向かって戸惑いがちに手を振る聖の横で、博也は軽くヒラヒラと手を振っている。満足気な笑みを浮かべながら……
(ったく…白々しいんだよ……)
博也と俺は、実は中学からの付き合いだ。
名前の呼び方からも分かるだろうが、昔はこれでも仲が良かった。
そう、あくまで“昔”は……
高2になった頃から、俺達はあまり会話をしなくなった。今となっては、友人以下の関係に成り下がっている。
そうなった理由は分からない。気付いた時には、そうなっていた。
けど、今日の博也を見て思った事がある。
まだ憶測でしかないが…聖が関係してるんじゃないかって……
「なぁ、光輝…いつの間にオマエ、宮木さんとお知りあいになったんだよぉ?」
田辺が、頬杖をつきながらムスッとしている。
聖を好きだと自覚した日から数日…急に聖と話す様になったのがあまりにも不審だったのか、俺は毎日毎日質問攻めにされている。
一応、周りの目を気にしてわざわざ『宮木さん』と呼び方を変えているのに、これじゃ何の意味もない。