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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第22章-2

―え?

指が、私の足の付け根に侵入してくる。

これはおかしい…飃が身体をかがませずに、私の…私の…ええい、とにかくソコに手を届かせることは出来ない。さっきから後ろの飃は身動き一つしてないし…

理解した瞬間、身体が凍りつく。

―痴漢、だ…!

声を出そうか?いや、声は出ない…沢山の女性が痴漢にあっても泣き寝入りせざるを得ないその理由がよくわかった。こんな満員の車内で、密着した身体が揺れる極度に狭いこんな空間で…声など…出ない。出す勇気など、でないのだ。

私は、なんとか空いているほうの手で飃の足に触れる。

「うん?」

と低い声が聞こえて、私は少しだけ安堵する。でも、指は執拗に私の足の間にあって、粘土でもこねるみたいに気持ち悪くうごめいている。“歯車に挟まった粘土”という比喩は、今をもって撤回しよう。私は、後ろから顔を近づけてきた飃になるべく見えるように顔を動かす。私の目に浮かんでいた不快感を読み取ったのだろう、飃の耳が警戒するように後ろに倒れた。

電車はちょうど、速度を落として停車駅に滑り込んでいる最中だった。私は飃に、一度この列車を降りて次のに乗るか、別の車両に移ろうと提案するつもりでいた。歩くような速さに落ち着いた電車がついに止まり、ドアが開いて新鮮な空気が流れ込んできた。乗客のうち何人かが降車して、他の人も、また乗り込むために一度電車を降りる。

それに乗じて逃げるように外に出ようとしたその瞬間、私ですら予想しなかったすばやい動きで飃が誰かの腕を捕らえた。何人かの乗客がその突然の出来事によろめいたり、ぶつかり合ったりして、車内には押し殺した不平のどよめきが走る。

「つ、飃…!」



気付くべきだった。

私が痴漢にあって、飃がその犯人を野放しにするはずが無いではないか。痴漢といえば何と無く、会社員くずれの中年男性を思い描いていたのだけれど、片手をつるし上げられ、恐怖の面持ちで飃の鬼のような形相から目をそらす彼はまだ若いように思えた。呆然とする乗客には構わず、飃が男を放り投げる。文字通り、駅のホームに放り投げたのだ。

「飃!大丈夫だから!私は何処も…」

飃は電車を降り、私の声にも耳を貸さずに男の傍につかつかと歩いてゆく。私があわてて電車を降りると、すぐ後ろでドアが閉まった。階段裏の暗い一角で身体を二つに折る男の腹に、飃が強烈な蹴りを放った。

「飃っ!!」

見ていられなくて、厳しい声を出す。男の表情を見る気にはならなかったけど、嗚咽は聞こえた。空気を吸い込みながら咳き込む、苦しそうな声も。振り返った飃の表情には一部の哀れみも無くて、久しぶりに私をたじろがせた。


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