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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第22章-1

母が何を想っていたのか、私は知らない。



母の好きだった料理も、母のお気に入りの場所も。

母が何に涙し、何に微笑んだのか。

また、何が彼女を喜ばせ、何が彼女を絶望させたのか。

私は、知らない。



八条皐月、昭和36年生まれ、享年37歳。

それは書類上の、とても冷たい事実。思い出とは違う…記憶とも。



私の記憶の中にある、私の名前を呼ぶ母の声は、私が作り上げた幻の声なのか、それとも本当の母の声なのか、それすらもう、わからない。私が思い浮かべる母の笑顔は・・・遺影のそれとそっくりだった。

先代の青嵐の命を受けた父と、出会った経緯は何だったのだろう。私くらいの年のころ、一体なにを考え、何をして過ごしていたのだろう。そして…

そして、私のことは、どう思っていたんだろう。





++++++++++++++



7時3分に地元の駅を出た時にはまだ余裕があった車内は、4つの駅を通り過ぎた今は完全な満員電車になっていた。運よくドアの横のスペースを確保した私たちは、この季節にはありがたくない乗客の熱気と、窮屈な体勢を何とか我慢するので精一杯だった。傍らの飃など、零れ落ちそうなほど一つの車両に満載された乗客を、さらにひじで押し込む駅員を見て、ほとんど驚愕していた。



今日は日曜日。まだ梅雨の気配も無い毎年6月のはじめは、母の命日が近いので必ずお墓参りをする。何年か前に7回忌を済ませたので、しばらくは法事の用もない。普段なかなか足を運ばないお墓だけれど、両親の命日にだけは必ず行ってお花を供えるようにしている。

今窓の外を眺めれば、何処もかしこも新緑に輝く田舎の景色が見えたのだろうけど、電車が揺れるたびによろめく乗客の身体を受け止めるので精一杯だ。

「いてて…。」

声にならない悲鳴を上げる。肩をすくませてなるべく身体を小さくしているけれど、なんだか歯車の間に押し込められた粘土になったような気分だ。しかも、私たちが降りる駅まではまだ30分もある。飃の困惑したようなうなり声が後ろから聞こえる。そんなことが起こる確率は限りなく0%に近いけど、彼は絶対サラリーマンにはなれない。

「…ぇ?」

何かが私のお尻に当たる。カバンの角…ではない。手だ。

…まぁた飃の悪戯が始まった…。と、私は知らん振りを決め込むことにした。彼の表情を伺えるほどこの車内は広くない。すると、手が徐々に下に伸びてくる。今日はスカートではないけれど、ジーンズ越しでもその手の温度ははっきりわかった。飃ったらホントに…


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