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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第22章-14

「一番見たくないのは…貴方のかなしむ顔だから…そんな顔しないで、ね?」

絆創膏だらけの指は、きっと触れてもいい気持ちはしないだろう。でも、飃は私の手を頬に引き寄せ、何も言わずにそうしていた。

「正直に言えばさ…親を恨んだこともあるし、飃に出会わなかったらって思ったこともあるんだ…。何で私がこんな目に、ってね。」

私は飃の足の間にもぐりこんで、背中を彼のお腹にくっつけて座った。飃の両手を、私は肩越しに繋いでいる。私が何を言っても離れられないように。

「こんなに辛いのは飃とであったせいだ、とか。そもそも、お母さんとお父さんがへんな術をかけたからだ、とかね。」

そして、我知らずくすくす笑った。

「でもさ、そんなに思うほど辛かった事って…何だと思う?」

「さあ…わからない。」

気弱な飃の言葉。まったく、朝、駅で見せた気迫はどこに行っちゃったのよ。

「飃が死にそうになってたりさ、飃に二度と会えないんじゃないかって…それが一番辛かった。」

いつも私を安心させてくれる大きな手を、今は私が包んでいる。不意にその手が動いて、私の肩を強く抱いた。

「だからさ、謝るくらいなら、責任とってずっと一緒に居てよね。言わなくたってそのつもりだろうけど?」

「断られたって、そうするさ。」

ゆっくりとした吐息が首筋を暖める。微笑みもうとして引いた口元が、ぴりりと痛んだので余計笑えた。

「…キスはお預けだね。」

「…口にする分はな。」

悪戯っぽい声が熱を帯び、体の芯に灯が灯ったのが解った。飃の瞳を覗き込む前に、台所から声がした。

「飯にするぞ!」



門下生に食事を振舞うために、広く作られた食堂には、道場の手伝いをしてくれる門下生やら家政婦さんが勢ぞろいして飃のことをものめずらしそうに見ていた。私の婚約相手(この国の法律ではまだ結婚したことになっていないので)として紹介されると、小さな頃の私を知っている皆は途端に値踏みするように飃を見た。さしずめ、なんだあの長い髪はとか、何人だとか、不埒な奴なら、どこまで行ったんだとか考えているんだろう。でも、どうやらおじいちゃんのお墨付きらしいと言うこと(この点については私が一番信じられなかった)がわかると、途端に酒の相手にと引っ張りだこになり、夕食は一気に宴会に突入した。門下生の中には会社員も居るし、フリーターも学生も居る。老若男女入り混じるこの感じは、狗族の集まりとか、飃の村での食事に少し感じが似てるなぁ…結局、私はにぎやかなのが好きなんだ。

お祝いムードに酔っ払った門下生の奥さんが、いつまでも帰ってこない夫に痺れを切らして迎えに来た。腕っ節が強い、通称熊さんは、小さな娘と華奢な奥さんに怒られてにこにこ帰っていった。それをきっかけに、皆ぞろぞろと帰っていく。最後の一人、おじいちゃんの友達で槍術仲間の善さん(宴会開始の一方を聞いて駆けつけたのだ。)は、部屋の隅っこで座布団を枕代わりに眠ってしまった。


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