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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第22章-13

「ただ…」

「なに、それ。」



私は、飃の肩を持って顔を上げさせた。

「今更…今更それを言って何になるのよ!!」

飃の方を握った手は、力をこめたせいで洋服だけをぎゅっと握った。飃は黙って俯いている。こんな…こんな彼の姿は、見たくない。

「一年!一年たっちゃったのよ!飃と出会って…体中に傷跡つけて、死にそうな目にあって…一年で…ううん、生まれた時からいっぱい、いっぱい失ったよ!!」

足が立ち続けることを拒んで、飃の両足の間にすとんと落ちた。手ではまだ飃の服を握り締めていて、掴みかかるような、すがるような…そんな格好で声を上げることは、とても自然に思えた。

「そうやってなくしたものの全ての!全ての蹴りがその一言でつく?私が欲しいのは貴方からの謝罪?私、そんな風に見えるの!?」

―そうじゃない。そうじゃ、ないんだ。もう戻れない。戻ろうとは思えない。私は知ってしまったから…多くの悲しみを、多くの怒りを。そして…もっと多くの…

「誰がなんと言おうと、飃…私は…」

手の力が抜けて、私の手は滑り落ちた。飃の胸に頬を押し当てて、銅像のように動かない飃の、早鐘のようになる心臓の音を聞いた。

「私が戦うのは、貴方のためじゃないの。親が私の中に武器を埋め込んだからでも、私が半分狗族の血を引いてるからでも、私が飃を、愛しているってことだって、戦う理由にはならない。」

―でもね、飃…いま、わかったよ…そうか。そうだったんだ。

「沢山失ったね、飃…貴方も、私も…でも、後悔なんてしていないの。」

―だって、あなたに逢えたもの。そして、沢山の友人達にも。喪失の悲しみを埋めて余りある、それはそれは素晴らしい出会いだと、私は信じている。だから、私は戦ってゆける。

執着したい。

死んでいった全ての人たちの記憶に。果たせなかった約束に。そして、それ以上に…温かい…酷く温かいこの腕の中に、何度でも戻ってゆくことに。

―死ぬのが、怖い。

怖いと思うことを後悔したくない。そして、その恐怖を生んだのは運命の悪戯なんかでも、狗族に対するお義理から我慢しているせいでもなく、自分の決断の故であることを、うまく彼に伝えることが出来たら・・・。

でも、それでも彼は求めるのだろう。彼や、狗族たちは。私の戦う理由を。

この足を洗う見えない波は、あまりに沢山の思念を運んできては、また遠くに運んでゆく。手の届かないほど遠くに。それは私の足取りを乱して、波の引くほうへ向かおうとする私を翻弄する。

「信じて…私が戦ってきたのは、本当に単純な、取るに足らないような理由からなの。」

お願い、顔を上げて。そうすれば見える。私の決意が…揺るがぬ意思が。

「涙を見たくない。それだけなの。飃…今の貴方なら…わかっているでしょう?」

貴方の優しさが、痛いほどわかる。頬を包んだ私の手に、促されて顔を上げる飃の目に、一年前私を魅了した、あの残忍な火は無い。


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