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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第22章-10

―力が強い。

慶介が槍を引き、そのまま私の首筋を掻こうとしていた。私は飛びのいて、間をおかずに再び慶介の間合いに詰め寄る。慶介が柄で受け止めた私の竹刀に、渾身の力をこめて押し下げる。両手で竹刀を握る間隔が広い慶介のほうが、鍔迫り合いのこういう状況では圧倒的に有利だけど、私の腕力はそれをやってのけるくらい強くなっていた。慶介の目が私からそれた一瞬を狙って、竹刀を振り上げ…

私の視界から慶介の顔面が消えた。慶介がしゃがんだのだということがわかった瞬間、私は彼の竹刀に足を払われて転倒した。

「…っ!」

すかさず首を守るように掲げた竹刀に、容赦ない打ち込みが入る。

手が痺れるほど、容赦ない。

「お前はっ!」

ビシ、という硬い音が、狭い道場内に反響する。その音をしのぐ慶介の声も。

「自分が化け物の血を継いでるから!強い旦那が居るから!救世主だから…!」

彼の声は、振り絞るように発せられていた。私の身体を見下ろして竹刀を打ち込む彼のほうが、悲痛な声を上げている。

「…死なないとでも思ってるのかよ!この馬鹿野郎!!」

馬鹿はどっちよ…歯を食いしばって、襲い掛かってくる竹刀に耐える。

―馬鹿は…どっちだ!

「煩(うるさい)!!」

寝かせて盾にしていた竹刀を立てて、慶介の一撃をつばで受け止め、払う。

「そんなこと…とっくに知ってるんだ!」

「じゃあ戦いなんてやめちまえ!!」

もう、竹刀なんかかなぐり捨てていた。幼い頃、いつもそうしたように、私達は面を脱ぎ捨てて、取っ組み合った。

「自分らしさを見失って!親の決めた言いなりになって!お前は死ぬのかよ!」

相手が女だから、顔を殴らないなんて常識、慶介にはなかった。そして、それが何よりありがたかった。口の中に広がった血の味が懐かしい。

「死ぬもんか!!」

私も殴り返す。そのまま、慶介を押し倒して馬乗りになった。

「死んで、たまるかぁっ!」

私は、私の理由のために戦いに行くんだ!親のためでも、狗族のためでも、飃のためでもない!!自分が何を言っているのか、考えないで叫び続けた。

「私にだって…私にだって戦う理由くらい…!」

慶介が急に起き上がって、頭突きを見舞ってきた。一瞬頭が真っ白になって、体中の力が抜ける。次の瞬間、今度は後頭部がガツンと床にぶつかって、腹に慶介の重みを感じた。


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