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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第22章-9

玄関には、道着に着替えた慶介が座っていた。

「…何やってんのよ。もうとっくに稽古は…」

「お前と試合がしたい。」

慶介らしくない、浮ついたところが全く無い真剣な声だった。兄貴面を決め込みたい時によくだす声で、私はその声が嫌いだった。親密な友情に、途端に距離が生まれる…それも、上下に。

「証明してくれよ。さくら。頼むよ…。」

でも、今は彼が下に居るみたいだった。真摯な眼差しに私が戸惑っていると、後ろの飃が私の背中を押した。

「さくら、己からも…頼む。お前の友人を安心させてやって欲しい。」

なによ、私が川辺でブスくれてる間に、もう男同士の友情を結んだってわけ?私はため息をついて…そもそも、拒む理由なんて無いから、道着に着替えるために自分の部屋に入った。



道場に入ると、懐かしい匂いがした。昔は嫌いでたまらなかった、木と、汗の匂いが、今はそれほど嫌ではない。何年にもわたって使われてきた道場の床は黒く、裸足の足に冷たくて気持ちよかった。私が自分の竹刀を取り出すと、先に待っていた慶介が竹刀を―剣道の竹刀を手渡した。

「納得させてくれ。」

私は、挑戦的にその目を見返してうなずいた。納得させてやるともさ…痛いほど。



剣道(私のはかなり我流だけど)と槍術の試合は、数こそ少ないが行われている。リーチの面で考えれば、圧倒的に槍術が有利だ。でも、槍の間合いに入り込んでしまえば、状況は一転する。元々馬上の人間を攻撃したり、“槍衾”を作って向かってくる敵を突き刺したりする、どちらかといえば守りの要素が強い槍に対して、向かうところを間違えなければ、刀は決して槍に劣らない。

審判は必要なかった。これは、形式的に一本とったからといって“納得”出来る試合ではない。おじいちゃんも飃も道場に居たけど、審判どころか、開始の合図さえ頼まなかった。しゃがんでいた慶介が先に立ち上がり、一瞬と間をおかず私も立ち上がった。

―たった2年で…

慶介は逞しくなった。背は小さいほうだけど、その分がっちりしていて、今まで私にほとんど意識させなかった男らしさを身に纏う様になっていた。

私を見据える目は、私のことをただの試合相手としてみているだけでなく、私を圧倒しそうになる強い意志が宿っていた。でも…

―負けるわけにはいかない。私のためにも、飃のためにも。

剣先で互いを牽制しながら、相手の動きを読む。先に動き出したのは私だった。

振り上げた竹刀の動きに、穂先で円を描くように避け、私の胴を狙う。元々上段まで振り上げるつもりの無かった私の竹刀は、さらにその穂先を払った。

その場に漂う緊張感は、ある種の錯覚を抱かせた…私達が持っているのは竹刀ではなく、私達が立っているのは道場ではなく、私達がしていることは試合ではなかった。これは文字通りの真剣勝負で、ここは戦場。そして、私達がしているのは殺し合いだ。

―あんたに殺し合いの何がわかるって言うのよ、慶介。

「いああ!」

突きを狙って真っ直ぐ懐に飛び込んだ私の顔を狙って、慶介の竹刀は再び弧を描いた。私が更に間合いを詰めると、鍔迫り合いにもつれ込んだ。

歯を食いしばる。


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