社外情事?5〜難航のプレゼントとこめられたコトノハ〜-9
「ち、違いますっ。変なのは私ですっ」
言われなくても、今の湊は変である。しかし、至極当然の事ながら、誠司はその事を言いはしない。ただ黙って、彼女の様子を見ている。
それからしばらくして、落ち着きのなかった湊は深呼吸を繰り返し、なんとか普段の雰囲気を取り戻した。
「……すみません。ちょっと動揺しちゃって」
まず湊は誠司に謝罪し、頭を下げる。
「…そんなに会っていないのに友人だと思ってくれてたのが、何故か嬉しくて…」
続いて、動揺の理由を自ら明かした。その内容に、誠司は若干意外さを感じつつも、なるほどそういう事かと納得する。
「…そうだったんですか…」
「はい。…すみません、変な誤解をさせてしまったみたいで…」
「いえ、気にしてませんから」
そして、再度謝罪する彼女をやんわりとなだめた。
「ただ、ちょっと驚いただけです」
だが続いた誠司の言葉に、まだ少し狼狽えていた湊は口を軽く尖らせた。
「…私、冗談とかは言ってませんよ?」
「そういうのじゃありませんって。…なんか、友人だと思ってくれてた、ってだけで喜ぶ人、初めて見たんで…」
と、彼女が再びはっとなる。続いて、ぼふ、と赤くなった。
「え、えと、あの、その」
頬を手で押さえ、明らかに平静を欠いた態度でどもる。
「……も、もうこの話は終わりですっ、い、行きますよっ?」
しまいには困りきった表情でそっぽを向き、誠司を置いて歩き出した。
「行きますって……って湊さんっ?どこへ行くんですか?」
その様子をぼうっと眺めていた誠司だが、湊が自分を置いて行ってしまった事に気付くと、慌てて彼女の後を追う。同時に、湊を引き止めようとしたのか、自然と問いかけていた。
すると湊は、やはりずんずんと進みながら、振り返らずに言う。
「安くて美味しい店が近くにあるからそこに行きますっ。誠司さんの奢りですっ」
なるほど――誠司は内心で納得する。
つまり、これは照れ隠しなのだ。
「…わかりましたっ。だからそんな早く行かないでくださいっ。見失っちゃうじゃないですかっ」
ならば、敢えて触れたりはするまい――誠司はそう思いながら、更に先へと進んでいく湊の後を、足早に追いかけた。
それから十数日後。玲の部屋にて迎えたクリスマス・イヴ。
「メリー・クリスマス」
誠司の声で、シャンパンの入ったグラスを鳴らし合う。
「二人きりの聖夜に、乾杯」
玲の言葉で、まずは一口。
そしてグラスから口を離すと、玲は幸せを噛みしめるような笑みを浮かべた。
「ふふ……クリスマスがこんなに楽しいものだなんて思わなかったわ」
「…今までは違ったんですか?」
しかし、玲の言葉を受けた誠司の問いに、彼女の笑みは苦笑に変わる。
「クリスマスなんて私みたいな立場からすると、会食会合その他もろもろに誘うちょうど良い理由。肥えきった恋愛圏外のおじさんや、年中手の内読みあってばかりの連中と面を合わせて、楽しめるわけないじゃない」
そんな彼女の言葉に、誠司もつられて苦笑し、「大変そうですね」と相槌を打つ。すると、玲は肩をすくめた。