やっぱすっきゃねん!U…D-11
〈ガンッ〉
当たったボールの衝撃で、小刻みに揺れるレフト・ポール。
(ヨシッ!)
1塁を廻った山崎は両手を〈ギュッ〉と握り締めると、ゆっくりとベースを駆けて行く。
先制ホームラン。〈ポイントゲッター〉という4番らしい働きをした山崎に、1塁スタンドは湧き上がり、3塁スタンドはどよめいた。
東海中は、動揺が修まらないまま5番の菅を迎えた。ピッチャーはカーブを投げた。
菅は待っていた。
信也と同様に右足を踏み出し、左手で強く押し込むバッティングで、センター左へ抜けるヒットとなった。
再び歓声が湧き上がる青葉中ベンチと1塁スタンド。
「ヨシッ!一気に行こう」
永井がベンチからサインを送る。
ランナー菅と、1塁コーチ湯田がサインに頷き、ヘルメットのツバを触った。
6番の長岡も、永井を見つめて打席に入った。
ピッチャーがセットポジションに入る。菅はゆっくりと塁を離れた。
その距離、約3メートル。
牽制でも、頭から帰れる位置。
ピッチャーはセットでホームを見つめた後、素早く向き直り、牽制球を投げた。菅は動きを察知して、余裕でベースに戻る。
ファーストからの返球を、苦い顔で受け取るピッチャー。明らかに苛立っている。
再び塁を離れる菅。
今度は、その動きをジッと見つめている。
瞬間、ピッチャーの首がホームを向き、右足が浮いた。
(いまっ!)
菅は深く曲げた左足を強く伸ばし、スパイクで土を咬むと素早く蹴った。
ボールは外の真っ直ぐ。
長岡は引き付けて強く流し打った。
打球は右を抜ける。2塁手前で、菅は3塁コーチの仲谷を見た。
仲谷は腕をぐるぐる回している。
菅はベースを踏み場にして、さらにスピードを上げた。
ライトからダイレクトで返球される。〈滑れ!〉と仲谷が叫んだ。
菅は頭から突っ込んだ。
サードが捕球してタッチする。
菅の右手がベースに触れた。
サードがグラブを上げて、審判にアピールする。
一瞬の静寂。
「セーフ!セーフ!」
審判の手が横に振られた。
「ヨッシャッ!」
菅は立ち上がり、ユニフォームについたドロをはたき落とす。
その笑った顔もホコリだらけだ。