私の涙、いくらですか?3-6
「あまり元気がないようですね。」
「いえ、お気になさらず…。そういえば竹村さんは花がお好きでしたよね。」
「えぇ。…でもよく分かりましたね。僕は花が好きだと、あなたに言った記憶はありませんが。」
「え…?」
なぜそう思ってしまったのだろう?
確かに竹村さんと花の話なんてしたことないのに…
なんだかこの人の前だと調子が狂ってしまう。
私は苦笑した。
「なんとなく、です。竹村さんに似合うような気がして。この…月見草とか。」
私は純白の可憐なその花を指差す。
その時微かではあるが、感情を見せないその男の表情が揺れたような気がした。
「月見草って夕方に花咲くんですよね。環境の変化に弱い花だけど…この屋敷は手入れが行き届いているみたいだわ。ったく、どこまでお金をかければ気が済むのかしら…」
わたしはぶつぶつと愚痴まみれの1人言を呟く。
その様子を見て、竹村さんは微笑む。
いや、微笑んだ表情を作っている、というのが適切かもしれない。
少なくとも私はそう感じた。
先程僅かに見せた心の動きも、すっかり消えてしまっている。
「僕にこの花は似合いませんよ。この花は華奢で弱すぎて、きっと守り切れませんから。」
無表情で整った顔。
この男が何を考えているのか…不覚にも知りたいと思ってしまった。
「田村さんも月見草お好きですか?」
急に話しかけられてはっとする。
つい竹村さんの顔を凝視してしまっていたようだ。
「えぇ、まぁ…。あ!そろそろ仕事があるので失礼します!!」
私は逃げるように、そう告げ、本邸に向かう。
その時、呟くようなその男の声が聞こえた。
「花言葉は“ほのかな恋”」
それは誰に聞かせるつもりも無い言葉だったのかもしれない。
それ程に、小さな小さな声だった。