私の涙、いくらですか?3-5
「いえ、直接的に辞めさせるように言ったりはしないんだけど…陰湿なのよ。自分の部屋の掃除をさせて徹底的にいびったり…」
「…。樹里亜さんは姑ですか…。」
私は呆れたような声で言った。
しかし、目をつけられたら大変かもしれない。
出来るだけ関わらないように……
「それでね、田村さん。あなたがお嬢様の部屋の担当になったわ。」
「は?」
「さっきお嬢様がいらして、あなたに自分の部屋の掃除をさせたい、と。」
「な……」
(な、な…今何て言った!!!?)
「最近は何とか私がお嬢様のご機嫌を伺いながら掃除してたんだけど…」
山崎さんは心底申し訳なさそうな顔をしている。
いやいや、あなたは悪くありませんとも!
でも佐伯樹里亜は何で私を直接指名!!?
明らかに目をつけられてる!!?
「というわけだから早速、お嬢様の部屋よろしくね…田村さん。」
その瞬間私は、頭の中が真っ白になるのを感じた。
*
事務所を出て本邸に向かう途中、花壇の近くに人影を見付けた。
風に揺らぐ端正な花々。
それらのむせかえるような香りが漂う大庭園。
この人とはここでよく会うわね。
「こんにちは、竹村さん。」
私の視線の先には、何気なく花壇の方に目を落とす竹村慎司が立っている。
顔を上げ、綺麗な瞳が私を捉えた。
「あぁ、田村さん。これから仕事なんですね。」
「えぇ…。」
答えながらも、これから佐伯樹里亜の部屋に行くと思うと、表情が曇ってしまう。