私の涙、いくらですか?3-4
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“203”と書かれた表札がかかったドアノブに鍵をさしこみ、時計回りに捻った。
カチリという手ごたえと共に開錠される。
この203号室が職員寮での私の部屋だ。荷物は4日ほど前に届いており、ベッド、机、箪笥など、必要な物はアパートから運んで来てある。
食事は支給されるので、食費の心配は一切なし。
まぁ週に一度、食事当番が回ってくるけど、それくらい些細なことだ。
私は学校が終わると真っ先に公衆トイレに行って高校の制服から私服に着替え、それからバスで職員寮に帰って来るという生活を繰り返している。
コレも全ては…
(大学生って学歴偽ってしまったからなのよね…)
制服を着ている所を見られたら一発NG。
バレたらどうなるかわからないけど、クビになるか、詐欺で訴えられるか…
いずれにしろヤバイ。
この誤算としか言えない状況に思わずため息をつく。
「とにかく、仕事しないとね。」
私は水色のつなぎのような、清掃員に支給されている制服(可愛さの欠片もない)に着替え、山崎さんのいる事務所に向かった。
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「失礼します。」
「あら、田村さん来たのね。ちょっと話があるのよ、めんどうなことなんだけど…」
山崎さんはとても言いにくそうな顔をしている。
良くないことであるのは間違いない。
「構いません、おっしゃってください。」
「あなたも不思議に思ったでしょう?なぜこのバイト、こんなに人が足りてないのか…」
「そうですね、この条件ならやりたい人もっといそうですけど。」
「その原因っていうのが、ほとんど樹里亜お嬢様なのよ。」
「はぁ、それはどういう…」
「見ての通り樹里亜お嬢様は、末っ子ということもあって社長に甘やかされて育てられたの。」
「確かに、我が儘そうですね。」
私の言葉に、山崎さんは人差し指を口元に当て、シーっという仕草をした。
「ダメよ、そんなことを言っては。お嬢様の耳に入ったら、大変なことになるわ。」
「辞めさせられるんですか?」
なんとなく、社長に告げ口する佐伯樹里亜の姿が容易に想像できた。