私の涙、いくらですか?3-3
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「あははっ!樹里亜ちゃんって可愛いところあるんだね〜」
皐月がお腹を抱えて笑っている。
「笑い事じゃないわよ。これからずっと働くのに、変な言いがかりつけられて…たまったものではないわ。かといって下手に刺激すると仕事辞めさせられるかもしれないし。」
私はくいっと眼鏡を上げる。
もし学校で樹里亜に会った時のために、眼鏡で変装することにしているのだ。
皐月はニヤニヤとした笑いを浮かべている。
「な、何。」
「本当に言いがかりなの〜?」
「はぁ!!!?」
「本当はその秘書のことどう思ってるのやら…」
「冗談じゃないわ!!私が好きなのは…」
そこまで言ったところで急に言葉に詰まった。
はっとして目を伏せる。
私、一体何を言おうとした・・・?
皐月は相変わらずにやにやと嫌な笑いを浮かべたままだ。
うぅ…今日は意地悪だわ。
「私にだって他に好きな人くらいいるわ。」
「え!!?誰?!」
皐月は心底驚いたように目をクリクリさせている。
ふっ。
「内緒。」
仕返しをくらいなさい。
「誰だれだれ〜!!?」
何度も回答を迫られたが、私は頑として答えず、佐伯家に直行した。
というより言えなかったのだけど。
(私が好きなのは…あんたの兄よ。)
バスの中で目を瞑りながら考える。
そんなことを皐月に言ったらどうなるのだろう…。
“じゃ、早速紹介するね♪”
とか
“メル友から始める?携帯プレゼントしよっか♪?”
とか…
考えただけで頭痛がする。
皐月は私と違って金持ちだ。
携帯くらいはポンと渡してきそうな気がする…。
会ってみたい、正直。
どんな人なのか見てみたい、声を聞いてみたい。
私が思っている通りの人なのか実際に確かめたい。
本当に好きなのかどうか分かるのは、きっと、会って確認してからだと思う。
だから、今はまだ皐月には言えない。
私は目を開けて、窓の外を見る。
相変わらずの崖、崖、崖。
「ひぃっ。」
まだこのバスには慣れそうも無い。