私の涙、いくらですか?3-2
「僕の時は頭を下げなくていいですよ。同じく雇われているだけの身分ですから。」
「は、はぁ…。」
そうは言われても、礼しないわけにはいかない。
その心遣いだけありがたく受け取っておこう。
「仕事には慣れましたか?」
「はい。山崎さんにも良くしてもらって、感謝しています。」
「そうですか?彼女は厳しいと有名ですが…あなたは仕事が出来るんですね。」
竹村さんは微笑む。
「いえ、そんなことは…。仕事があるので、失礼します。」
私はそそくさとその場を後にする。
(褒められた…)
ずんずんと歩くスピードが上がる。
なぜか顔が紅潮するのを感じる。
学校も女子高だし、男の人に免疫ってないのよね、嫌になるわ。
「ちょっと、あんた。」
「きゃっ!!」
曲がり角に差し掛かったとき、横から声がした。
驚いていつもは出ないような声をだしてしまい、気恥ずかしくなる。
声のした方を見ると、佐伯樹里亜が腕を組み、壁に寄りかかって立っていた。
「あんた慎司と仲いいの?」
「え…?」
私が質問に首を傾げていると、彼女は詰め寄って来た。
「慎司とはどういう関係なのかって聞いてるのよ!」
(何言ってるの、この人は?)
私は苛々する気持ちをなんとか押しとどめた。
こいつは社長の娘。
こいつは社長の娘っと…。
「ただ挨拶をしていただけです。なんの関係もありませんから。」
「ふん、話したくらいで顔赤らめちゃって、慎司は誰にでも話しかけるのよ。勘違いしない方がいいわ。」
(…そんなに顔が赤かったのだろうか。それにしても…)
「樹里亜お嬢さんは竹村さんのことがとてもお好きなんですね。」
樹里亜の顔が一瞬にして耳まで真っ赤に染まった。
「ば、馬鹿言ってんじゃないわよ、誰があんな奴!!余計なこと言わないで、あんたは掃除でもなんでもしてればいいのよ!!」
勢いよく後ろに振り返ったかと思うと、足を踏み鳴らして走り去っていく。
私は呆気にとられてその様子を見ていた。