明日になれば…-8
深夜。
橘はおかしな音で目を覚ました。音はとなりの部屋から聴こえている。橘はそっとソファーを離れ、となりの部屋へのドアに聞き耳を立てた。
「…ウウッ……アウッ!……クウッ…クッ…」
それは2人が放つうめき声だった。家出してから、いじめに遭いながら、耐えていた頃からの辛い精神状態が続いてきたのだろう。
橘はまたそっとソファーに戻ると、毛布にくるまった。うめき声は明け方近くまで続いた。
*****
「センセイ、起きてよ」
橘は彼女達の声に目を覚ました。
「…今、何時だ?」
「10時半…お腹空いたよ」
夕べは彼女達のうめき声で明け方近くまで眠れなかったためか、橘の頭の中はぼーっとしている。だが、そんな事も言ってられない。彼女達を親元に帰さねばならないからだ。
「ヨシ、お前達は顔を洗って着替えろ」
橘に言われて彼女達は顔を洗って着ていた服に着替え出したが、〈アレェ?ブラどこに蹴飛ばしたっけ〉とか、〈春菜、何気に胸でけぇー!ちょっと触らせて〉等と、とても多感な時期の子供とは思えないような言葉が飛び交う。
「オマエら、いい加減にしろよ」
後から着替え出した橘が、とっくに着替え終わっても騒いでいるため、注意をするとやっと静かに着替え始める。
「じゃあ行こうか」
朝食を終えた3人は、事務所を出るとクルマに乗り込み走り出した。まずは圭子の家へ。道中、橘は圭子に話し掛ける。
「どうする?オレが直接親御さんに話してやろうか」
ミラー越しに圭子の顔を橘が見ると、コクンと頷いた。
クルマは圭子の自宅がある〇〇町へと向かった。
「何だか怖い…」
自宅が近づいて来て、そう言った圭子の顔は少し青ざめていた。
「緊張するな…と、言う方がムリだろうな。でも、一生懸命に自分の思いを言ってみろ。必ず伝わるさ」
「伝わら無かったら?」
橘は〈その時は〉そう言って一瞬、続きを言うのを躊躇ったが、
「その時は、自分で生きろ。親との縁を切って」
自宅前にクルマが停まった。橘はクルマから降りて玄関へと向かうが、圭子はクルマから降りようとしない。
橘に促されると、ようやくモゾモゾと、さも億劫だと言わんばかりの動きでクルマを降りた。それを春菜は窓ガラスにくっついて眺める。
〈いいな〉と言った橘。が、となりの圭子は返事をしない。彼は構わずチャイムを押した。
間もなくチャイムのスピーカーから女性の声がした。どうやら圭子の母親のようだ。