明日になれば…-16
ー翌朝ー
橘は、今日も疲れた身体を引きずるようにクルマへと乗り込むと、春菜を捜しに出掛ける。
クルマのキーを差し込み、イグニッションを回した時、携帯が着信音を響かせた。橘はバックから携帯を取り出すと画面を見た。松岡からだった。
「はい…橘ですが」
松岡の声は、心無しか高揚している。
「センセイ、朝早くから申し訳ございやせん。急を要する話だったので」
橘は喉が一気に乾くのを覚えた。
「春菜の件ですね?」
「そうです、やっと分かりました」
松岡は少し興奮気味なのか、声が上ずっている。橘も焦る心を抑えるように、落ち着いた口調で訊いた。
「何処に居たんです?」
「詳しく話は後ほど。すぐにウチに来て貰えませんか?」
「分かりました。すぐに参ります」
橘はクルマのギアをロォに入れると、猛スピードで松岡の自宅へと向かった。
橘の自宅から、松岡興業まではクルマで10分ほどの距離だった。橘は事務所に着くと、松岡への取りつぎを従業員に頼んだ。
「こちらでお待ち下さい。松岡はおっつけ参りますので」
応接室に通される。壁には松岡組と書かれた小さな提灯が、取り囲むように並べられ、壁に掛けられた鹿の首の剥製が異様なコントラストを描いている。
しかし、今の橘にはそれらを眺める余裕も無かった。
「いやぁ、すいません。すっかりお待たせしやして」
橘が一礼して、
「色々ご足労お掛けします」
松岡はオーバーに両手を振ると、
「よして下さいよセンセイ。アンタ方のような人を手助け出来るんだ。こんな嬉しい事はねえんでから」
「さっそくですが、春菜…女の子が見つかったとか」
表情豊かな松岡の顔が、能面のような無表情に変わった。
「それが…実は、私達とは敵対関係にある組が関わってまして」
「それは何処ですか?」
[工〇会草〇一家…」
橘は言葉を失った。工〇会と言えば全国的な暴〇団組織だ。松岡の説明では、草〇一家はその中でも武闘派らしい。