明日になれば…-13
「いいえ。逆に子供達は救いを求めてるんです。彼等の行動は、一見すると不可解に見えるかもしれませんが、自身の存在を周りに認められたいという欲求なんです」
橘のあまりの変わりように、警官はちょっと驚いた。が、すぐに彼の気持ちに気づくと、
「すいません。つい、調子にのって。よく上司に言われるんです。〈オマエは警官にしては一言多い〉って…」
バックミラーをチラリと見ながら警官は笑った。そして、すぐに真顔になると、
「橘さん、私にも娘がいるんです。今年で14歳になるんですが、最近ではどう接して良いものか…」
「急に生意気な意見を言ったり、親の言う事を聞かなくなり、果ては娘を腫れ物にでも触るように扱っている?」
警官は橘の質問に驚きながら頷いた。彼も人の親なのだ。
橘は続ける。
「失礼ですが、娘さんをある意味〈個人〉として扱うべきですよ。子供はアナタの〈所有物〉じゃないんですから」
「個人としてですか…」
警官はため息混じりに言葉を繰り返した。
*****
「どうも、ありがとうございました」
「こちらこそ。失礼しました」
橘はお礼を言うとパトカーから降りた。辺りには彼を見ている人影がチラホラとあった。
橘は視線を無視するように、クルマに乗り込み、ゆっくりと走らせた。
自宅へと向かうクルマの中で深く考える。
(何故、何が春菜を追い込んでいるのか。どうしたら助けてやれるのか……)
「まだまだオレも修行が足らんなぁ」
ため息混じりに独り言を吐く橘の顔には、苦悩の色が滲んでいた。
それから橘はいつもの〈パトロール〉と〈電話相談〉に従事しながら、春菜の居所をに探した。
しかし、見つかるどころか、きっかけさえ掴めないまま2週間が過ぎた。
橘の心の中で、焦りと不安が、黒い染みのように広がっていった。
*****
ようやく春菜の消息が分かったのは、さらに2週間ほど経ったひと月ほど後の事だった。
彼女自身から、橘の元に連絡が来たのだ。
ある日、橘はいつものように事務所兼アパートで、電話待ちをしている時、呼び出し音が鳴った。
彼は受話器を取ると話しかけた。
が、応答が無い。
「もしもし、こちら命のダイヤルですが。どちら様?」
相手は、ヒューヒューと荒い呼吸音を鳴らして声を絞り出した。それは紛れもなく橘が聴き覚えのある声だった。