明日になれば…-12
「それは…」
「そこで我々としても通報を受けた以上、アナタの身分を証明頂かないと…」
警官の説明に、橘は諦めの表情で、
「分かりました。このクルマは?」
「アナタへの通報が勘違いと分かればお送りますから、路肩に寄せておきましょう」
橘はパトカーに乗せられて、警官署に連れて行かれる羽目になった。春菜は自分の家ではなく、他人の家に行ったのだ。
そして、家人に〈誘拐されて隙を見て逃げて来た〉と言って、警察に通報してもらうと、自身は裏口から逃げたのだ。
橘はパトカーの中で、騙された事よりも春菜の気持ちを見抜け無かった自身に腹を立てていた。
ー警察署ー
正面玄関から現れた橘は、苦々しい表情を露にしていた。腕時計に目をやると、ここを訪れてから2時間が過ぎており、すでに日は傾き掛けている。
彼の前に、先程の警官がパトカーでやって来た。窓ガラスを開けながら警官が橘に話し掛ける。
「乗って下さい。貴方のクルマまでお送りしますよ」
橘は躊躇せずにパトカーのバックシートに乗り込む。警官はゆっくりとアクセルを踏んだ。パトカーが警察署を離れる。
「先程までは失礼しました」
警官が話し掛ける。橘はどう答えていいものか分からず、
「いえ…」
警官は、バックミラーでチラリと橘を覗くと、
「最初っから誘拐じゃないと思ってたんです。ただ別の件かと…」
「別の件?」
怪訝な表情でバックミラーに映る警官を見つめると、それに気付いた警官が続ける。
「失礼ついでに申しますが、橘さんのその風貌。私、〈〇関係〉の人かと思ってましたから」
警官はそう言うと小さく笑った。確かに、灰色のシャツに黄色のネクタイ、黒いスーツでは間違われても仕方ない。橘自身もそう思った。
「最近はね、暴〇団が子供にドラッグなんか売るんですよ。私はそっちなのかと思ったもので…」
「はぁ…」
「しかし、大変でしょう?ボランティアとはいえ子供達をまっとうにするのは。今の子供はワガママばっかりで自己主張だけは一人前ですから」
それまで生返事だった橘が、この質問には張りのある声で即答する。