The Christmas without you-1
〜alone〜
何でも、6月の花嫁は幸せになれるらしい。
…それなら、沙紀は幸せになれるのかな?
「…結婚」
オレは呟いた。
この事態を予想していなかった訳でないし、何となく気がついていた。
「そうこれから本当にお姉ちゃんよ」
と、無邪気に笑う彼女、…沙紀は、4つ上のオレの幼なじみで、さらに2つ上の兄貴と結婚した。
…オレの気持ちを知らないまま。
オレは、事故で両親が死んだ5年前から兄貴と2人暮らしだった。
沙紀の家は隣で、残されたオレらを心配してくれて、よく世話をやいてくれた。
そんな沙紀を、密かに好きだった。
だから、気付いてしまった。
オレの目が沙紀ばかりを追うように、沙紀の目は、兄貴ばかりを追っていたこと。
そして、兄貴も沙紀を見ていたことを。
―今年の初夏、オレの淡い恋心は行き場を失くした。
事実上失恋だ。
それまでとあまり変化のない生活が、逆につらかった。
変わらない生活の中では、変わった事が一段と浮き彫られる。
落ち着いた服装、兄貴と同じ寝室、薬指の指輪。
そんな中で過ごした半年。
昔は、沙紀と少しでも長く一緒にいたくて、走って学校から帰って来ていた。
…なのに今は、沙紀と2人の時間がなるべく少なくなるように、寄り道ばかりしている。
一緒に居たくない訳がない。
今でもこんなに好きなんだから…
でも、2人で居るとつらい。
好きだと言えないのがつらい。
笑う沙紀を見るのがつらい。
…好きだから。
早く忘れたいのに、なかなか忘れられない。
「…沙紀、オレ、今日ダチん家に泊まるから、兄貴に言っといて」
夕飯の支度をする沙紀の手が止まる。
「なになに?彼女でも出来たの?」
沙紀は、笑いながらまた手を動かす。
オレは、話をそらした。
「沙紀だって、今日は2人がいいだろ?」
沙紀は、答えなかった。
「沙紀?」
「初めてだね」
「え?」
「…涼のいないクリスマス」
沙紀は、寂しそうに笑った。
そんな顔をされたって、…オレは、どうすればいいんだよ?
「…涼?」
オレは、家を飛び出した。
行き先なんてない。
ただ、こらえ切れなかった涙の意味を、沙紀に悟られたくなかった。
葉の落ちた街路樹に無数の電球が光る。
恋人達、家族連れ、すれ違う人たちの顔からは、笑みがこぼれている。
「っさぶ」
突然吹き始めた強い風に、思わず声を上げる。
勢いで家を出てきたオレは、コートもなければ、財布もない。
アイツの家にも、友達の家にも、今は行く気になれない。
オレは、ふらふらと幸せな街をさまよう。
目には、涙が滲んでいた。
指先に白い息を吹きかけ、空を見上げる。
重い空に、白い物がちらつく。
この街ではめったにないホワイトクリスマスだ。
きっと積もることもなく、儚く消えていくのだろう。
…オレの、恋心のように。