君のそばにいてあげる(二日目)-5
「またマッドラボか。でも、可愛いぞ美作」
嬉しそうに俺の頭を撫でるみわちゃんを見ていた遥奈が「みわちゃんずるい」と言いながら俺に抱きついてきた。
「えーいっ! 教室でやめんかっ!! このアカポンタン!」
「ふふふ、相変わらず美作と神林は仲が良いな。でもな神林、ここは教室で今はホームルーム中ってことを忘れるなよ」
復活したみわちゃんは俺と遥奈の頭に軽くゲンコツをくれるとホームルームを再開するのだった。
そして昼休み。
今日も俺は大変だった。
授業の合間の休み時間になるとクラスの女子は俺の頭の犬耳を興味津々とばかりに触りまくり、挙げ句の果てには遥奈に尻尾まで出されてしまった。
遥奈の一連の動作にいろんな意味でクラスメイトから歓声があがった。
因みにその間、俺は抵抗を試みたが無駄に終わったのは言うまでもなかった。
「ったく、散々な目にあったな……」
盛大な溜息を吐くと俺は自分の席を立ち購買へ向おうとする。
「ゆーくん、ちょっと待って。はいこれ」
えーっと、これって弁当箱?
遥奈は俺に二つ持っていた弁当の一つを俺に差し出した。
「これって……」
「うん。ゆーくんのお弁当。頑張って作ってきたんだよ」
遥奈の思わぬ行動に女子は冷やかしの声をあげ、男子は殺意に満ちた視線を俺に向けてきた。
その後、杏子や清十郎も俺の席に集まり、幾分居心地が悪いながらも賑やかなランチタイムを過ごした俺だった。
「はあぁっ……今日も一日疲れた……」
学校の帰り、足取り重く歩く俺の横では遥奈がニコニコしながら杏子と話していた。
「ま、しょーがないんじゃない。今のあんたはうちのクラスの愛玩動物みたいな扱いだし。見た目までそうなっちゃ扱いは確定だけどね」
「……やめてくれ。こんな姿は今日一日だけだ」
杏子の言葉に俺は不満そうに答えた。
「えーっ。もったいないよぉ。ゆーくんこんなに可愛いのに耳と尻尾取っちゃうの?」
心底残念そうな顔をする遥奈だったけど、俺にしてみたらこの耳と尻尾は邪魔以外の何物でもない。
「あっ、そうだ! 祐二、今日あんたの家に行っていいかな?」
ニコニコと笑顔で聞いてくる杏子だが、奴の目当ては知れている。
俺の部屋にあるゲームが目当てなのだ。
「勘弁してく……」
「あたしも行くっ!!」
俺が言いかけたところで遥奈が俺の言葉を遮った。
「ちょっと待てお前ら……」
「ねー、いーでしょー、ゆーくーん」
遥奈のお願いモードには抵抗するだけ無駄と知ってる俺は盛大な溜息を吐くと長居はするなよとだけ言うと遥奈と杏子の二人を引き連れ家に向うのだった。
「ただいまー」
俺が玄関の扉を開けると後ろにいた遥奈と杏子が「おじゃまじーす」とハモる。
まあ、この二人にしてみたら俺の家は勝手知ったるなんとやらだ。
俺達は靴を脱ぎ家に上がりリビングに向かう。
すると、リビングのテーブルに一枚の紙が置いてあった。
『パパのところへ行ってきます。後はヨ・ロ・シ・ク♪』
母さんの置き手紙だった。
てか、親父は今日出掛けたばかりだろ……。
母さん。あんたって人はどんだけ気が短いんだか。
「あれ、叔母さんお出掛け? じゃあ、ゆーくんのご飯はあたしが作ってあげるね」
そう言った遥奈は嬉しそうだった。