sweet chocolate-5
「ありがとう…」
チラッと礼を言う朱李を見ると…すごく優しい表情で微笑んでいる。
コイツのこんな顔は珍しい……って…
え?
はいはいっっ!!
この人、メガネかけてマス!!!!
朱李は大好きな読書をする時しかメガネをかけないんだ。目が悪いくせに、授業中でさえメガネをかけない。
そんな奴が、緋色のチョコレートケーキを見る為に…メガネカケテマス!!
ってか、どんだけ集中してケーキ見てんだよ!?
バカです。
みなさん、ここにバカがいますよーっっ!!!!
しかも、いつも無表情で無愛想な男がほんのり頬染めちゃってマス。
きもいって。ガラじゃねーだろ。
朱李の顔を見ながら、どん引きのオレ。
「はい、コレは紅のね」
緋色が、真っ白いクリームのハート型ケーキをオレに手渡す。
すげーうまそう。
「今年は自信作だよー」
そう言って、テレたように微笑む緋色がマジ可愛くて…すげー幸せ。
ヤバイ。今のオレの顔、さっきの朱李みたいになってんのかな?
「…っ」
緊張で、オレの手が震えた。
「あっ」
「おいっ」
「んあ?」
第一声目のは、かわいい緋色の声。
二声目は、朱李の珍しく慌てた声。
最後の間の抜けたような声は、オレのモノ。
そして、差し出したオレの手にはいつまで待ってもケーキは乗せられず…
ふと…緋色を見ると、泣きそうな顔で俯いている。
「?」
不思議に思って緋色の視線の先を辿ると…
「エッ!?」
オレに手渡されるハズだったケーキは、無惨にも朱李のズボンにひっくり反っている。
「あ……あぁぁ……」
何てコトだ。オレが今日という日をどれだけ楽しみにしていたか…
ケーキの無惨な姿に、オレは足の力が抜け、立っていることすら出来なくなった。
砕けるように、その場に膝を着き、頭を垂れる。
もぉダメだ…立ち直れない…
緋色がオレの為に一生懸命作ってくれたケーキが…
なんだか熱いモノが込み上げてきて、視界が滲んできた。