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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第21章(後編)-11

「これはおれの身体だ…」

『お前に体を与えたのは、この私だ…』

ざわめきの様だった青嵐の声が、次第にそれぞれの形をとって会話を始めた。

「不遜の息子を恨む前に、手前の教育不足を呪え、クソ親父…」

『我らが存在理由は、この女をこの世から跡形もなく消し去ることのみ!』

「破帆(ははん)よ、おれは青嵐にも、お前らの狂気じみた生き方にもうんざりだよ!」

そして、沢山のざわめきが、青嵐の肌から直接聞こえ出した。叱咤する声、嘆く声、憎み、呪う声…その全てのざわめきに、青嵐が叩きつけるような一言を叫んだ。

「文句があるなら死んだ自分を恨みやがれ!大変遺憾なのはおれも同感だがな、青嵐はこのおれだ!」

ぼろぼろと、棘の先から小さな文字が脱落し、ふわりと消滅する。

「今生きてるおれの…おれが選んだやり方に…口を出すんじゃねえ!!」

恐れをなした文字たちは、やがて一つ一つがごく小さな文字へと縮んでゆくと、広げられた両手の指先から、腕を辿って男の下腹部に納まった。

「くそったれ…おれの体を乗っ取ろうなんざ、百年早えんだよ…。」

そう言って、苦しそうな息をついて地面にひざをついた。

「青嵐!」

駆け寄る南風に、青嵐は初めて優しく触れた。
「下らねえよな…青嵐なんてよ。おれは青嵐何ぞになりたくなかった。憎むだけ憎んで、ガキをこさえて、そいつにまで憎むことを教えて…不毛だよ。くそみてえな生涯だ…だから逃げ出したかった。いつまでも颪のまんまでいたかった。」
そして、何年かぶりに味わった、耳鳴りも鈍痛も消え失せた彼の身体を、恐る恐るさすった。
「だがよ…憎しみばかりの生涯を正すことができるののも…やっぱり青嵐なんだよなぁ。」
消えたわけではない呪いの黒い文字は、確かに彼の半身に刻まれたままだった。それらはまるで、主人の命を待って大人しく座る猟犬のように無害なものになった。彼が、呪いの亡霊を服従させたことは、南風の目にも明らかだった。
「ええ…。私たちは二人とも、それを教えて戴きました。」
そして、手の中で暖かい玉を見つめた。立ち上がった青嵐は、彼が残した爪痕をぐるりと見渡した。彼がなんとか制御しなければ、あのまま意識ごと闇に呑まれて、二度と帰ってくることは出来なかっただろう。そうする力を与えてくれたのは、他ならぬこの女だった。生意気で、甘ったれた小娘だと侮っていた…そして今は近畿の長。
青嵐は、南風の手をとり、二人の帰りを待つ皆のもとへ帰った。


「九尾は、来るべき戦への力添えを望み、死したその身を自ら玉に封じた。この玉の発する毒気に、澱みは大いなる被害を被る筈だ。」
その報告を聞き、九尾守は悲しみに頭をたれた。青嵐の者たちさえ、戸惑いを浮かべた顔を見交わすほかは無言だった。
「南風、今を以て九尾守首領の任を解く。近畿を治める長として末永く安泰を護られるよう。」
「承知致しました…青嵐殿。」
かしこまった青嵐の口調に微かに笑いながら南風が膝をついた。
「任を解かれた九尾守各位、今後は青嵐会の一員として処遇する。憎しみは盲目を呼ぶ。狗族が存亡の危機にある今、仲間内で憎み合う事ほど愚かな事はない…九尾はそれを教えてくれた。今を以て青嵐の狗族は、憎むべき敵を赦し、弱者を護る志を新たに抱かん!」
狭い洞窟内に、狂ったように反響した歓声は千人もの狗族がその場にいるかのような錯覚を起こさせた。


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