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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第21章(後編)-12

「お人柄を示されたな。颪…いや、今は青嵐以外の何者に見えようか。」
飃が、青嵐に歩み寄って言った。その表情は誇らしげでさえある。
「よしてくだせえ、兄さん。あんたの前じゃ飾れねえや。」

答えた青嵐は、以前の彼のように気楽な物腰に戻ったけれども、誰が見ても、以前の彼のようには見えなかった。彼は、九尾守の狗族たちに囲まれる南風に声をかけた。
「南風…今度は飲みに来いよ。奢ってやるから。」
「ふ…貴方のお店が流行らない理由が解りましたわ…」

南風はゆっくりと微笑んだ。
「お客に残らず奢ってしまうのですもの。他人に教える気が失せてしまう。」
なぜか、その微笑に胸の中をかき乱される思いを感じながら、青嵐は余裕のある風を装って答えた。

「違うね。男ばかりのむさい店だからだ。だから来て花を添えてくれや。」
「嘘ばかり。女の方なら沢山いらっしゃるのでしょう?」

くすりと笑う南風の顔に、他に言葉が見つからない。
「ああ…まぁな。」

今まで彼の店に、女を連れ込むことなどそうなかったのに。あの店は颪であった頃の彼の隠れ家で、軽薄な女に簡単に立ち入ることを許せるような場所ではなかったからだ。はやらない第一の理由がそれなわけだが。
「私のような面白くない女が居ては、お酒の味が悪くなります。」

べつに何の悪気も感じさせない南風の言葉に、青嵐が何か言おうとした瞬間…



「―澱みだ!!」

「数が多い!」

洞窟の出口のほうから、ざわめきが起こった。

「ちっ…退路がねえのを知ってやがる。」

青嵐は舌打ちをして、傍らの飃を見た。

「たかだか数百の澱みに物怖じするようでは、まだまだだぞ、青嵐。」

「兄さんと一緒にしねぇでくださいよ、こちとら箱入り息子なんだから。」

そして、よどめく部下たちによく通る声で言った。

「おれと飃を先頭に!鋒矢の陣を組んで突破する!二陣以降は撃ちもらした敵を駆除しろ…ほとんど残らねぇだろうがな!」

そして、瞬く間に陣形が出来上がった。正式な鋒矢の陣の簡易版といったところで、先頭に配された二人を中心に、矢じりのような形で戦士が連なる。敵陣中央に突撃して撹乱させ、その間に突破するための陣形である。

「ここで死んでたまるか!澱みと心中したくなきゃ、斬って斬って斬りまくれ!」

青嵐の言葉に、様々な鬨の声が続いた。

「また兄さんの戦舞を見れると思うと、ゾクゾクするってもんだ。」

「南風にいいところを見せるといい。」

飃の耳打ちに、気のきいた冗談で気恥ずかしさをごまかす前に、澱みの大群が暗闇の中から躍り出た。



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