飃の啼く…第21章(前編)-22
長い洞窟だった。長い洞窟だったけど、明かりが無くて困るような事は無かった。狗族には、風を操ったりする事のほかに、狐火を燃やすという特殊技能が備わっている。人間にたとえるなら…いや、人間にたとえるのは無理だ。とにかく、沢山の松明のような狐火が、四メートルほどの高さがある洞窟の天井までくっきりと照らし出していた。門の外から忍び込んできた澱みが、更に数匹追ってきたけれど、骨を投げられた犬よろしく、若狭と風巻が飛びついて一瞬で解体してしまった。たぶん、二人に言っても全力で否定されるだろうけど、きっかけさえあれば二人はものすごくいい友達になれるような気がする。
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「やってきました。」
堅く閉ざされた小部屋の壁の向こうから、狛狗族が声をかけてきた。
「ご苦労であった…。ここまで案内しておくれ。」
自分でも、自分の声が弱弱しいのに半ば驚いてしまう。だが、計画は成功した。最早誰にも彼女の計画を阻むことは出来ない。
この部屋を明るく保っていた唯一の光だった、狐火も消えてしまった。暗闇に包まれたこの部屋に、九尾の狐の静かな吐息だけが聞こえていた。
もうすぐ…
「もうすぐ、そちらに参りますよ…。」