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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第21章(前編)-21

「たまには飃が言ってくれてもいいのよ?」

軽い冗談のつもりで言う。

「そうだな…己はあまり礼を言うのが好きじゃない…有難みがなくなるだろう?」

なーにそれ、と、私が上げた顔。その前にある飃の顔は真剣だった。

「だがいつか…お前が己に子を授けてくれたら、毎日でも言ってやる…うんざりするほどな。」

それは、遠まわしな約束。ずっと一緒に居るという…ずっと愛し続けるという約束だった。そして私たちの子供、という単純な言葉のつながりが、予想もしていなかった喜びを呼んだ。

「うん…ありがと。」

その一言で、伝わっただろうか。

わたしが今、どれだけ幸福であるか。





「門って…!」

そこは、私たちの両側にせまる崖がぶつかり合って行き止まりになっているところで、肩を寄せ合うようなその崖の上にうっそうと生い茂った木々が、高く昇っているはずの太陽の光を隠している。それでも、目の前の異様な光景をくすませることは出来ない。崖と崖の行き当たったその下に、穿たれたような丸い洞窟がある。“門”は、その丸い洞窟にすっぽりとおさまっていた。大木のような柱から、重そうな扉にいたるまで、全てが朱塗りで、その立派な門が、この静かな山中の奥の奥に一つの傷も、ひとつの染みも無い状態でそびえている。まるで、洞窟の奥から出てこようとした“羅生門”が出口のところで突っかかってしまったとでも言うような眺めだ。

言葉を失う一行を、待っていたかのように門が開いた。とたんに、足元からねずみが這い登るような感覚がして、悪寒が指先まで駆け抜けていった。

「澱み、だと!?」

開門を待ちわびていた何対もの澱みが、崖の上からぼとぼとと落ちてきた。

「やはり罠―!?」

信じられないような表情で一瞬立ち尽くした九尾守達も、気を取り直して澱みの駆除に走った。やってきたのは十体にも満たない澱みで、中級から少し大きなものばかりだったが、かたはあっさりついた。私が飃から預かった七星に手をかける間もなかったくらい。実際、澱みを倒したのはほとんど青嵐会か九尾守の狗族たちで、その頭はどちらも不動だった。ただ、颪さんが考えていることはよくわかった。やはり罠かと思っているのだろう。いつもは下がっている目じりがつりあがっている。多分、2週間前と比べて何ミリか目じりの位置がずれたはずだ。

最後の澱みが塵になったのを見届けると、南風と颪は何も言わずに門の中に入った。殿(しんがり)を颪は風巻に、南風は若狭に任命したため、狭い洞窟内を二人の罵詈雑言が反響して飛び交った。


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