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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第21章(前編)-19

「御方を猫扱いするのか、人間の分際で!」

今まで発言しないでいた南風の部下、首守の若狭が、威嚇するように長い牙をむいた。

「若狭、落ち着きなさい。」

南風の制止に一応は口をつぐんだ若狭は、憤懣やるかたないといった様子で茜をにらみつけた。茜は、肩をすくめてそれを流す。

「言葉の綾よ。どっちにしろ九尾はもう長くないんでしょ?どこか静かなところで死ぬつもりかもしれないわよ。青嵐の目の届かないところで、一人静かに。」

若狭がこの人間の“小娘”に腹を立てているのは明らかだった。若狭のような狗族は封建的な部類に分類されるタイプで、人間は狗族よりも劣り、狗族の世界のことは人間の理解の及ぶところではないと少なからず思っているタイプだ。そういう狗族に会ったのは初めてではないし、私も何度もそういうことを言われた。そういう人は人間だけで無く、混血や家系の縺(もつ)れを嫌うのものだから。そういう狗族の考えを改めさせるのは容易なことではないし、べつに問題であるとも思わなかった。そういう人もいるよね、まぁ、私は私のやるべきことをやるだけだから、と考えることが出来た。でも今、目の前で茜が明らかな侮蔑の意味合いをこめて“人間”と呼ばれたことには、無視できない怒りと失望を覚えずに入られなかった。

「とにかく、まずはその場所に行くべきだ。」

その場にいた皆に助け舟を出したのは風炎だった。

「全員でね。」

抜け目ない茜の一言と不敵な笑みが、私を安心させた。交わした視線で、テレパシーみたいに相手を気遣い、その気遣いに返事をよこす。“へっちゃらよ。”

そして、彼女の肩の向こう側には風炎がいた。彼女の事は自分が面倒を見るという、責任感と自信に裏づけされた強い目だった。私は二人にうなずいて、それ以上心配するのをやめた。



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部屋を照らすのに使う行灯の灯りは、隙間風など入り込む隙間も無いというのに、絶えず揺れ動いていた。

油も蝋燭も使わないその行灯は、中に狐火を宿した特別なものだ。この部屋の中では、最早蝋燭もその芯に火を灯さない。その、青白い光は、まるで月明かりだった。

そう。あの夜彼女の髪を照らした月明かりのよう。風が冷たく、触れ合う肌はやけどしてしまうほど熱かった。あのお方に名を呼んでいただくことを、どれほど嬉しく思ったか、今でもはっきりと思い出すことが出来る。あの方の詠んでくださった歌は全てこの胸の中に閉まってある。二人で見た景色の全て、二人で耳にした歌、風のそよぎ、小鳥のさえずり全てを。



先刻、彼女に仕える狛狗族の一人が、九尾守と青嵐らがこの場所に気付いたらしいということを告げた。彼女が自らに与えられた御所を抜け出してから、2日と半分。さすがは南風だ、と彼女は思った。あの生真面目な娘は今頃、髪が一筋白くなるほど取り乱しているだろう。気の毒には思ったが、目的を達成する為には黙ってくるより他に方法が無かった。彼女が行おうとしていることを告げれば、南風や彼女の部下たちは命を捨てる覚悟で自分をとめようとしただろう。それは避けたかった。

彼らがこの岩戸にたどり着くまでは、多く見積もっても1日。急がなければ。

取り返しの付かない状態にまで持ち込めば、あの者たちも諦めざるを得まい。



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