飃の啼く…第21章(前編)-16
そりゃあ、沢山授業休んだし、テストだって惨憺たる結果だったことは認めよう。でも、今更補習なんかしたところで何かの役に立つのか?いや立たない。付け焼刃だ。時間の無駄だと、頭の中でブツブツ文句を言いながら、人通りの少ない下校の道を一人行く。
「でもとりあえず進級は出来たんだし!」
出席日数は足りないものの、授業態度はそう悪くない私に情けをかけて、とりあえず留年だけは免れさせてくれた教師の面々には、感謝しても仕切れないくらいだろうに、春休み開けのこの補習地獄を味わってしまった今では、出てくるのは文句ばかりだ。
「あーあ…。」
心身ともにくたびれて、学校から帰ってきた。私を迎えたのは意外な顔だった。
「しけた顔してるねぇ、さくら!」
「茜?!」
ソファの上の飃は、読んでいる本から目を上げて、私がわたわたしているのを確認してから少し笑って、また目を伏せた。
「どーしたのぉ…?」
わたわたし通しの私の腕を茜が取って、寝室へと連行する。ドアを閉めても、茜はまだ笑っていた。
「いい男だねぇ!近くで見ると!」
おばさん口調で茜がふざける。
「ええ?!」
照れが半分、まだ混乱してるのが半分で私は上ずった声を上げた。茜が急に真顔に戻って、それはさておき。なんて言うもんだから、ますます状況が飲み込めない。
「颪って奴がうちに来たよ。」
私が何か言う前に、茜は続けた。
「九尾守が何とかって。風炎は何も教えてくれないし、私をのけ者にするつもりみたいなの。でね、相談なんだけど。」
「なに?」
「颪はたぶんあんたたちにも用があるはずなの。風炎には頼んでも無駄だから、さくらたちと一緒に…」
「駄目っ!」
私は驚かなかった。驚きよりむしろ恐れが勝っていた。勝気で、どんなことにも挑戦的な茜のこと、いつか自分も戦いに参加したいと言い出すのはわかっていた。でも、それだけは許せない。
「なにも許してもらおうと思ってるわけじゃないわ。」
私の恐れなど意に介さず、余裕の笑みで笑って見せた。
「“予告”しただけよ。」
「でも…危険なんだよ?!」
武器もないし…と言おうとした私は、言葉につまった。
「武器が無いってのは理由にならないわ。あるもん。」
そして、朱塗りの鞘を差し出した。彼女の父親が変化したという剣だ。その話については聞いている。でも、彼女は私と同じ薙刀部員であって、剣の扱いについては素人なはずだ…と言おうとしたその時、リビングで大きな音がして、言葉が凍った。どたーん、という、何かが床に叩き付けられた音だ。
「一体…!?」
茜を無言で制して、足音を立てずにドアへ忍び寄ると、飃の声が聞こえた。