赤い雫-5
「お兄ちゃん・・・」
自分の口から出る囁きも、くぐもってよく聴こえない。
「なんだ?」
「あれは、ホントなの?」
「あれ?」
「私が、吸血鬼だって・・・」
兄は眼を丸くした。
ポカンと口を開け、後から柔らかな微笑みを向ける。
「あー、あれか・・・あれは、ウソだ」
キーンと響く耳鳴りが退いた。
余韻を残し、静かに消えていく。
「加奈があんまり帰ってこないから脅かしたんだ。・・・まあ、とっさに出たこととはいえ、お前を吸血鬼にしたのはどうかと思ったけど・・・帰ってきたんなら成功だな」
目を細めて笑う兄の顔が、目の前で霞み、ゆっくり波を打った。
「わからない・・・」
「ん?」
ぼやけた視界の中で、私は兄の首に手を廻した。
モノクロの世界で、白と黒の兄に抱きつき。
ただ一つの赤を求めて、その首筋に噛み付いた。
「加奈!何を!!」
やっぱり私には、兄の言葉は、わからなかった。
信じるのは、難しかった。
だって・・・。
「がっ!」
肉を喰らい。
血を啜り。
・・・おいしい――。
・・・満たされる――。
そんな風に、思っていたから。