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赤い雫
【ミステリー その他小説】

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赤い雫-1

何を信じて、何を疑えばいいのか分からない。
何がウソで、何が本当なのかも、難しかった。


「ねえ・・・」

ショッピングセンター1F。
東よりの、子供服売り場を通り過ぎた私は、隣にいる友人に訊いた。
「紗枝って、夢はよく見る?」
「夢?・・・あたしにそんなのあるわけないじゃん」
「そっちのじゃなくて、眠っている時に見る夢」
「ああ・・・見るよ、時々ね」
「それって白黒? カラー?」
紗枝は買ったばかりの服。白のセーターが入った袋を持ち替え、思い出すように一度視線を右上にやった。
「カラー・・・かな。黄色とか緑とかの色は覚えてるから。それがどうかした?」
「昨日、変な夢見ちゃってさ」
「どんな?」
「お母さんが家の前で刺される」
両手でナイフを握り、刺すマネをすると、紗枝は大げさに顔をしかめた。
「え〜、マジで?」
「うん。刺した人も、見ていた景色も白黒ではっきりしなかったんだけど、血の色だけが真っ赤でさ。やけにリアルだった」
「それってヤバくない?」
「ヤバイよね」
「かなりキテル」
「キテルね」
「嫌いなんだ。お母さんが」
「ぜ〜んぜん!大好きだよ」
二人、顔を見合わせ――プッ・・・先に私が吹き出し、紗枝が後に続いた。
同じ身長の私たちは、体を寄せ合ってゲラゲラ笑った。


私は母が嫌いだった。
10年近く単身赴任している父に代わって、しつけをする母は厳しかった。
門限を勝手に決めては縛り付け、破れば容赦なく平手打ちが飛んでくる。
口答えしても同じで、黙れば反抗的な態度ととられ、目を三角にして怒鳴った。
そのくせ、五つ年上の兄には甘く。
遅くなるのには訳がある・・・遊んでばかりいる加奈とは違うなど、出来の悪い自分との差を見せ付ける発言ばかり浴びせられた。
何で私ばっかり!・・・母に言うと逆に叱られると思った私は、よく兄に突っかかった。
優しい兄は頭を撫でた。
「門限があるのは女の子だから」
「叱るのは、加奈を大切に思っている証拠だよ」と、優しくなだめた。
でも、私にはわからなかった。
兄の言葉を信じるのが難しかった。
早く帰っても小言は飛ぶ。
スポーツを頑張っても褒められない。
無理だといわれた高校に上がった時でさえ、認めてはもらえず。今では、紗枝と交わした約束。
『一緒に短大に行こう』と話した電話でのやり取りを聞き、鼻で笑った。
まるで、目的もないくせに・・・と言わんばかりの嘲笑だった。
だから好きにはなれず、あんな夢まで見てしまったのだろう。
たぶん、死んで欲しいとまでは思わないが、それに近い感情を、母に対して持っているのかもしれない。

散々笑った私たちは、休憩をとることにした。
紗枝は大好きなチョコミントアイス。私はバニラのソフトクリームを食べて、目的のバスまでの時間を過ごす。
時刻は7時。
昼間の天候の悪さと、夕食の時間帯も手伝って、店内の人の数はまばら。
奥に見えるゲームコーナーにも、さっきまでいた家族ずれの姿はなかった。


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