いのち短し、××せよ少女!-7
「や……」
「俺とすんの、嫌だ?」
小さく首を横に振る。
あたしだって単に疲れてるだけで、南野とのセックスは別に嫌じゃない。
むしろ――
(一番、好きなんだよね)
せっかちで乱暴。でも優しくしようとしてるのが分かる。
南野はセックス抜きで付き合うにも、一番の友だちだった。
でも好きだからこそ、彼氏にはできない。
「本当、あんたも好きだよね」
「それはお互い様。それに」
ゆっくりと下からすくい上げるように胸を揉み、あたしの反応を楽しみながら、南野は言う。
「今日はもう来ねーだろ?」
「どういう意味?」
「ヤれるだけヤりたいってこと」
南野が屈託なく笑い、あたしもつられて笑みを浮かべたのだった。
【 北村冬吾 編 】
生活指導室へ入ろうとドアに手を掛けるあたしが何気なく横に目をやると、廊下を歩く西岡の姿が目に入った。
「あ」「こんにちは」
向こうもあたしに気付いた様子で、通り過ぎる時にぺこりと軽いお辞儀と共に挨拶する。
そして、そのまま去って行った。
西岡の後姿を見つめながらあたしは心の中で呟く。
(あれ以来何にもなし、か)
顔見知りということで、西岡とは今みたいに廊下で擦れ違った時に挨拶をする。
けれど、それ以上のことはない。
あの保健室での出来事は、西岡にとって単なるお遊び、あるいは日常茶飯事なのだろうか。
妙にヤリ慣れてるようだったし、と思いながらもう一度ちらり西岡の背を見やる。
(別にいいけどね、遊び人め)
とは言いつつもあたしこそ、ああいう行きずりのセックスは日常茶飯事だったりして――人のことをいえた立場ではない。
「何してるんだ、早く入れ」
そんなあたしの後ろから、低く冷めた声。
「早くしろ」
せっかちだな、なんて口が裂けても言えない。
北村冬吾(きたむらとうご)は、化学科教師であり我が四ツ木学園の生活指導担当でもある。
長身で顔はいいんだけど、四六時中怒ったような顔をしている。
その面のせいか女生徒に嫌われているわけではないようだけれど、関わり合いたくない教師ナンバーワンには違いない。
北村先生と生活指導室に入って、泣かずに帰れた者はいないなんて噂も立つほど怖いのも有名な話。
泣かずに帰れた者はいないなんてのは単に噂が一人歩きしている感じだけれど、生活指導室で北村に泣かされたやつがいるのも事実だ。
彼の放つ無言のプレッシャーは、実際半端じゃない。
もっともあたしの場合、いつも北村に泣かされるのは、この先生が怖いからとかこっぴどく怒られたからという理由ではない。
「や……も、許してってばぁ……ッ!」
「許す?」
茜色の夕陽が閉まったカーテンから漏れて、北村の冷たい表情を赤く染めた。
長い指であたしのへそをゆっくりとなぞる。
びく、と震えたあたしの反応を楽しそうに見やる。
「寒川先生の件は、次に居眠りをしたらレポート十枚作成という条件で許しただろう」
「や……違ぁッ」
今日の寒川の授業で、やっぱり眠ってしまったあたし――南野の目覚ましは効果がなかったらしくて――はとうとう生活指導室に呼び出されてしまったのだった。
この北村は、学生のうちにしっかり勉強をしておかないと駄目だ、なんてありきたりの説教はしない。
これで何回目だ? どうして居眠りした?
そんな普通の質問――もっとも、しでかしたことの大きさによってはキツいことも言うんだろうけれど――をしてくるだけ。
嫌なのは、たったの数問に一時間二時間くらい平気でかけることだ。
鋭く睨み付けられ、無言のプレッシャーの中、北村がゆっくり問う。