辛殻破片『甘辛のエクリチュール』-8
「…っとと、すみません。 業務時間は休日以外いつでもと記されていますが、既に専属をして…ごほん。 正しくは毎週" 日曜日 "が業務時間なので、その時に連絡をお願いします」
「…………」
「ここからだと…電車を一駅分使って、十分くらいですね。 是非いらして下さい、菓子と紅茶を用意してお待ちしております」
「…ありがとうございます!」
少年はこの短時間でどれだけ成長できたか、自分にしかわからないだろう。
しかし、誰からの目を通して見ても、少年は確実に" 立派 "になっているはずだ。
まだまだ輝くであろう少年の後ろ姿は、始まりの小さな後光が差していた。
「さてさて……」
ふじやくんが家の中に入り、ドアを閉めるところを見届けると、どっと冷や汗が吹き出してきた。
「どうしましょうか……」
「買い物に行く」と雪柳宅を離れて何十分経過したことか。
もう由紀奈ちゃんは大学に行ってるかもしれない、となると、将太さんも起き出した可能性が高い。
帰宅してから料理なんて間に合わない、すぐに作れる訳じゃないんだから。
本当にどうしましょう…。
───と嘆いていると、更に最悪の事態が起きていることに気付く。
「あっ!!」
買ったばかりの食材が入ってるビニール袋を、ふじやくんと話していたあの暗い場所に置きっぱなしだった…!
人があまり通らない場所とは言え、本当にそれだけは危ない。
すぐさま取りに行かなくては。
───ビニール袋は荒らされることも取られることもなく、ちゃんとそこに存在していた。
だが…『ひとつ』、さっきの風景と別に違うものがある。
学生服を着た、ただの知り合い…じゃない。
透くんだ。