Need/-ed-5
「あんたは…あの男とは違うって…あたし…」
信じていたのに。
あたしを、あの牢獄から連れ出してくれた貴方だから。
「よくも!平気な顔して毎日あたしと暮らせたわね!!」
自分の世界には、彼とさくらしか残っていなかった。さくらには夫がいて、彼女は夫に必要とされている。彼女自身の世界に必要とされている。
あたしを必要とすることが出来るのは、風炎だけのはずだったのに。あたし達は天涯孤独で、お互いにとってお互いが必要で…でも…
ああ、ずっと前から、あたしは一人だったんだ。
たった一人勝ち得たと思っていた、私のことを一番よく知っている目の前の男は、ずっと前からあたしの敵で、ずっと前からあたしのことなんてどうとも思ってなくて…
今、同情の念からあたしと一緒にいるに過ぎないんだ。過去の罪を償うためにあたしの面倒を見ていただけだ。
―償いなど、同情など必要ない。
「消えて。」
―そうなるように育てたのは、お前達じゃないか。
あたしは風炎を突き飛ばした。この言葉以外に出来ることも、かける言葉も無かった。
「贖罪なんて今更必要ない!消えてよ!…消えてったら!!」
あたしは彼の目の前でドアを閉めてその場にへたり込んだ。
「なんなのよ…もう…。」
“父さん”があたしを呼んだ。
『こっちへおいで…茜…』
涙も拭かず、ふらりと立ち上がる。目の前の巨体は、娘を抱きしめる力加減を忘れて久しいような気もしたけど、私を求めるその声には抗えなかった。
―あなたなら、あたしを必要としてくれる…
鬼の手…私の身体を握って、そのまま持ち上げてしまえそうな大きな手が、そっと私に触れた。
『茜…』
「おとう…さん…?」
『茜……この鎖を解いてくれ…』
ぴく、と、私の体は動くのをやめて、体温が数度下がった。
―その先は言わないで。
『この鎖を解いて…』
―いや、やめて。鎖なんか解かなくたって、あたしがここにいるじゃない。貴方が探してたのはあたしなんでしょ?あたしを必要としてくれたんでしょ?!鎖なんか解かなくたって、あたしに触れられるじゃない!ずっと探していたものがここにあるじゃない!