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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Need/-ed-4

『…長い間、待った…。』

それは、先刻聞いた咆哮の獣じみた響きからは想像できないほどの知性を持った声だった。そして、知性を持っていることに何の疑いも抱けないようにした後で、鬼は言った。

『茜…。』

私の名前を口にした。



「な、なに?」

人違いだろうか。こんな化け物に会ったことなど無い。こんな恐ろしい…こんな…。

「君の父上だ。」

風炎が、告げた。



視点を一ミリもはずせなかった。私を見つめるその大きな、まるで皿のような目から。不意に、その目が私から、私の後ろに立つものに移った。途端に、彼は地面も揺るがすような声を上げた。悲鳴のような、怒号のような…

『返せ!!!』

そこで初めて、彼の手が鎖で壁に繋がれていたことが解った。ずしんと音がして、天井から細かな塵が落ちてくる。

『私の娘から離れろ!!変質者め!強姦魔め!』

「な…何を言っ…。」

なおも振動が襲い続ける部屋で、助けを求めて振り向いた風炎の顔は、見た事が無いほど表情に富んでいて、その顔を支配していたのは悲しみだった。

「12年前、君を彼…親元からさらったのは僕だ…。」



「―何?」



「獄の命を受けて、君を浚った。君を行かせまいとすがり付いてきた君の妹は、車の中から獄が撃ち殺した。」



“撃ち殺した”と、風炎は言った。まるで、害獣か何かを猟銃でしとめたみたいに。その顔を覆う悲しみの表情が無ければ、目の前にいる男を引き裂いていただろう。

じわじわと、自分の出自を覆っていたにごった雪が崩落してゆく。すがるように抱いた、親への思慕…それを、何度も、何度も打ち砕かれて、すっかり諦めてしまった今になって、目の前に現れた…待ち焦がれた再開は、待ち焦がれたことすら後悔させる、こんな…。

耳を聾する叫び声が脳髄まで振動させて、あたしの全ての血管が電熱線みたいにたぎるのがわかった。



母親がいた…妹がいた…父親がいた…その、全く知らないはずの、肉親の笑顔が、ガラスのように粉々にくだけてゆくのが…確かに見えた。砕いたのは…砕いたのは…


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