「集結する者たち其の二〜榛原陽介〜」-3
その後、リビングにて。
「……あの言葉、まだ覚えてたんだな」
「……ええ。私たち、陽介に格好悪いところばかり見せてたみたいね」
「……やり直せるかな」
「……やり直せるかな、じゃないわよ。やり直さなきゃ。陽介の事、もっと見ていたいもの」
「……俺もだ」
「……じゃ、仲直りのキスね」
「……ああ」
そして陽介は外に出る。
今回は逃げではない。きっと違う。単なる外出だ。
陽介にとっては、今日初めて生きていて嬉しく感じた日だった。今日に限って、“今まで”を拒否出来たから。
「ふぅ。用もないのに出ちゃったよ。……まあいいや。公園に行こうかな」
だからこのすっとした気分を捨て去りたくなかった。ずっと持ち続けたいと思った。
それが、束の間である事に気付かずに。
「久しぶりだな、榛原陽介」
遥か上空よりかけられる声。それも久しぶりだなと来た。つまりそれは知り合いである、と。
「……?誰だ?」
周囲を見渡すも、その声の主はいない。
いや、正確には陽介が見逃していた。
まさかそんなところにはいないだろう、と陽介は思い、そこは見なかったからだ。
「ここだ。ここ」
それは、電柱の上に立っていた。
長い金髪を紐で結び、その隻眼は爛々と輝いている。
右耳には変わった形のピアス。鮮血のような赤だ。
今の季節は冬だというのに、その男は半袖の服を着ていた。それもかなり薄手の。
「お前は……」
陽介は、その男に見覚えがあった。 初めて逢う気がするのに、初めてではない気もする。
だがなによりも、確かに榛原陽介の記憶は告げていた。
逃げろ。
それは単なる直感かもしれなかった。もしくは気のせいだと思いたかった。
(じゃあ……)
それでも記憶は未だに警告音を鳴し続けている。
逃げろ、
逃げろ、
逃げろ、
逃げないと、
(頭に薄らぼんやり浮かぶ、このイメージはなんだ……!?)
榛原陽介は、死ぬぞ。
瞬間、男は跳躍する。
「……っと」
短く息を吐きながら、華麗に着地。その際、息は寒さの象徴である白へと変貌する。男の金髪が、風になびいた。
男は告げる。
「あの時もこんなんだったか?……覚えてないか。まあ仕方ないわな。……じゃあ、そろそろ死ね」
「う……」
男の腕が振り上げられた。それは陽介を殺す為の予備動作。その周りの空間は、異常に震えていた。
殺される。
陽介の頭の中には、それしかなかった。
だから、
「うわぁぁぁぁああぁぁぁああぁあぁぁ!!」
陽介は敵に背を向け、敗走しようとした。
逃げなきゃ、
逃げなきゃ、
逃げなきゃ、
逃げなきゃ……。
その反応が良過ぎたのか、はたまた男がわざとやったのか、
「ちっ……!」
その振り上げられた腕は、宙を裂くだけだった。
陽介は、男から逃げおおせた。