jam! 第6話 『穴だらけの街』-5
「後はそうだな……。ほら、この前の念魔が出た原因の一つもそれだろうな」
脳裏に嫌な思い出が蘇る。まだ数日も経ってないが、……二度とあんな思いはゴメンだ。
「アレなんかはたくさんの『殺意』とか『敵意』が集まって形になったヤツだな。……ヤな世の中だぜ、まったく」
「殺意……ですか」
「原因は誰にでもあるんですよ?」
と、コーヒーを飲んでいた悠梨ちゃんがこっちを向いて言う。
「ほら。誰でも一度は嫌いな人に向かって『あんなやつ死んでしまえばいいのに』とか、『殺してやる』……とか思ってしまう事ってあるでしょう?」
「まぁ実際に実行する人はいなくても、確かに無い事はない……かな」
……僕にも覚えが無いワケじゃない。
「その気は無くとも、言葉には『力』が宿っています。一つ一つは小さな感情でも、たくさん集まれば強力な『呪い』になるんです」
「それに加えて思念が形になりやすいこの霧生市、……念魔が生まれるには十分な条件だな」
……あの念魔も、元をたどれば人が生み出したモノだって事か。
そう考えると、なんだか気が重くなるな。
「誰かを『殺す』。その想いだけが集まったから、不特定多数を殺す為だけを目的とした念魔が生まれたワケだ」
「……殺す為だけに、か」
あのとき、念魔から感じた殺意。
……あれは僕も知らないこの街の誰かが、別の誰かに向けた殺意だったのだろうか。
「……ま、だからその『殺意』の塊を排除したりするのに俺みたいな役が必要なのさ」
「なるほど」
「もちろん念魔退治だけじゃなくて、普通の依頼を受けたりもするぞ」
「まぁ、滅多にそんな依頼なんて来ないですけどね」
「……まぁな」
悠梨ちゃんが補足。
確かにあんまり繁盛してそうな感じではなかったが。