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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み4 〜夏一夜〜-11

「もう、迷わない」
 もう絶頂が近いのか凄まじい締め上げをして来た美弥の事を、龍之介は追い詰めた。
「りゅうっ、っあ、あ、イッ……あああああっっ!!」
 一声叫んだ美弥が達すると、龍之介は逆らわずに美弥の中で弾ける。
「はぅ、うぅ……!」
 全身をぶるぶる震わせている美弥を、龍之介はきつく抱き締めた。
「不安にさせて、ごめん。僕は……僕も、捨てられるのが恐い。けど……そんな気持ちは今日限りで、捨てるから」


 甘く蕩けた顔をする美弥の唇へ、龍之介はもはや何度目かも忘れたキスを落とす。
 付き合い始めた当初、熱く肌を触れ合わせた後は自分に擦り寄る美弥の癖を知ってから、龍之介は引っ付く美弥を抱いて存分に甘い時間を過ごさせていた。
 体の火照りを緩やかに静めるための後戯が前戯になって二〜三ラウンド続けてしまう事もあるが、たいていは美弥の体力を慮ってこのようにゆっくりしてから眠りに就く。
「……ね」
 不意に美弥が、龍之介へ跨がってから体を伏せた。
「ん?」
 美弥はためらったように視線を逸らし、何秒か沈黙する。
 そして意を決したのか、龍之介の顔を覗き込んだ。
「………………………………幸せ?」
 あまりにも唐突な問いに龍之介は目をぱちくりさせ……目を微笑ませる。
「んにゃっ」
 急に抱き寄せられた美弥は、変な声を出してしまった。
「美弥が傍にいてくれるなら、僕はいつだって幸せデス。」
 その答で、美弥は頬を緩める。
「へへっ……」
 胸板へ頬をくっつけてぺったり抱き着いて来る美弥へ、龍之介は尋ねた。
「……どうかした?」
「……何かね、りゅうがちょっぴり変わった気がする」
 美弥の一言に龍之介は、『恐るべし女のカン!』と頬を引き攣らせる。
 ぺったり抱き着いている美弥に、それは分からなかったが。
「そういうのが何か、嬉しいなぁって」
「……嬉しい?」
 何が?という顔をする龍之介へ、美弥は顔を上げて笑いかける。
「ん〜?ひ・み・つ」
「…………あのね」
 美弥はにっこり微笑んだ。
「さっきの教えてくれなきゃ教えな〜い」
「さっきの?」
 怪訝な顔をする龍之介へ、美弥はキスを落とす。
「何でりゅうがダメダメ人間まっしぐらなのか」
 美弥の真面目な口調と表情に、龍之介は表情を引き締めた。
「……恐いから、さ」
「何が?」
 不思議そうな顔をする美弥を体の上から降ろし、龍之介はその華奢な体を抱き締める。
「失う事が……」
「……何を?」
 肉厚なその体を抱き返しながら、美弥は尋ねた。
「美弥を」
 ぎゅ、と抱く手に力が籠る。
「別れる程度なら、まだ何とか耐えられると思う……それならまだ、生きてるから。けど、何かの病気とか交通事故とか……そういうので失ったらたぶん、耐えられない」
「りゅう……」
「傍から離したくない。束縛したい。でもそんな事したら……美弥の自由を奪うなんて、自分で自分が許せない。だから、ダメダメ人間まっしぐら」
 龍之介は苦笑した。
「こんな不吉な話はしたくないから、黙ってたの」
「ふっ……不吉でもいーよぉっ」
 美弥が涙声になっているのに気付き、龍之介はぎょっとする。
「嬉しい、から……!そんなに大事に想ってくれてるなんて、嬉しい……!」
 ふぇ〜ん、と美弥は泣き始めた。
 悲しくて泣いているなら慌てる所だが、嬉しくて泣いているのである。
 嬉しがらせを言ったつもりではない龍之介としては、あたふたする事しかできなかった。
「あ〜……な、泣き止んで?な?な?」
 泣きながら、美弥は首を横に振る。
「う……れしいもんっ。無理っ……」
 そう言われても、居心地が悪くて仕方がない。
 別に衆人環視がある訳ではないが、どうしたらいいのか分からないせいで、美弥が泣き止むまで龍之介は慌てっ放しだった。
 そして結局、美弥が何を嬉しがっていたのかは聞けずじまいだったのである……。


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