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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み4 〜夏一夜〜-12

 数日後。
「あ……瀬里奈」
 あまりにもしつこく携帯が鳴るので寝ぼけ眼で渋々電話に出た美弥は、あれ以来何故か親しくなった笹沢瀬里奈の声に驚いた。
『なぁ〜にが……あ、瀬里奈?よ!』
 わざわざ溜めまで作って、瀬里奈は叫ぶ。
『高崎君と同棲していちゃいちゃしてるのも分かるけど、ンな不健康な生活続けてどうすんの!』
「別にそんな……」
 反論しかける美弥を、瀬里奈が遮った。
『と、ゆー訳で!アクアランドの招待券があるから!明後日、水着持参で駅前に集合!いいわね!?』
「アクアランド!?」
 眠気も吹っ飛び、美弥は叫ぶ。
 電話の向こうで、瀬里奈は鼻を鳴らした。
『しかも、宿泊付き。だから絶対来るのよ?』
「うん!」
 ――電話が切れると、美弥は龍之介の元へ吹っ飛んで行く。
 やや寝起きの悪い美弥よりだいたい先に起きてしまう龍之介は、台所にて朝食の準備にいそしんでいた。
「龍之介〜!おっはよう!」
「ぅどわっ」
 龍之介は、思わず悲鳴を上げる。
 ちょうど目玉焼きに添えるカリカリベーコンを焼いていた龍之介は、背後から美弥に抱き着かれたせいでフライパンを取り落としかけた。
「お、おは、おは、よ……っと」
 何とか体勢を立て直すと、龍之介は変な顔をする。
「明日、水着買いに行こうね!」
「水着ぃ?」
 一体何があったかという顔をする龍之介へ、美弥は簡単に事情を説明した。
「そういう訳で、瀬里奈と一緒にアクアランドに!」
「はぁ……」
 口元を少し引き攣らせながら、龍之介はカリカリベーコンが出来上がる少し前にフライパンへ卵を二個、手際良く割り入れる。
 フライパンに蓋をして卵を蒸し焼きにしながら、龍之介はようやく美弥と向き合った。
「アクアランドって……」
 最近になって近郊の都市にできた、プール施設の名称である。
 龍之介の乏しい記憶に拠ると正式名称はアクアランド前橋とかいい、その名の通りに『水』をメインテーマにした総合アミューズメントパークを目指した施設だった。
「あ……」
 龍之介は、思わず立ちくらみを起こす。
 そんな施設に行けば色気を振り撒く水着姿のおねーさんを腐る程見なければならなくなってしまうと思ったせいだ。
 とはいえ、美弥との約束がある。
 一緒に行ってくれるかどうかと不安顔で抱き着いている美弥を裏切る事など、できるはずがない。
 龍之介は端から見れば笑われそうだが、自分にとって随分と悲愴な決意を固めた。
「分かった。行くよ」
 ぱああっ、と美弥の顔が輝く。
「ありがとうっっ!!」
 わしっ!と抱き着いて、美弥は感謝を表した。
 いい加減に蒸し焼きになった卵をフライパンから出しながら、龍之介は苦笑する。
 話の流れからすると一緒に行くらしい瀬里奈のまばゆい美貌と見事なプロポーションに自分がジンマシンを出さず、なおかつ周囲のおねーさま方が霞んでしまう事を願うばかりだ。


 そして、件の明後日。


「うっわ……」
「……」
 水着に着替えて落ち合った四人のうち二人は、龍之介を見て絶句した。
 別に周囲の人間が筋肉のないへろへろタイプだと言いたい訳ではないが、運動系の部活に精を出している面々よりも筋骨逞しそうな龍之介の姿は元々の顔立ちとあいまって、妙に人目を引きそうだったのである。
「うわ、改めて見るとやっぱり胸板厚い……すご、腹筋六つ……」
 瀬里奈にじろじろと眺められ、居心地の悪くなった龍之介は視線で美弥に助けを求めた。
 助けを求められた当の美弥は、きょとんとした顔で龍之介を凝視している。
「……眼鏡……」
 美弥がそう言うと、あぁと言って龍之介は説明してくれた。
「こういう施設じゃ、眼鏡はなくしそうで恐いから。あんまり合わないから半日くらいしか保たなくて嫌なんだけど、コンタクトにしたんだ」
「って、コンタクトなくす方が大変なんじゃ……」
 瀬里奈のツッコミに、龍之介はあっさり返す。
「心配ご無用。夏休み前に作って貰った、使い捨てのコンタクトだから」
 それに泳ぐつもりもないと、龍之介は心の中で付け加えた。
 これから行こうとしているプールエリアとやらには、おにーさん方は言わずもがな、おねーさん方が溢れている。
 不特定多数の女性と触れ合いそうな場所にのこのこ入るなど、自分にとっては自殺行為だ。
「ふ〜ん……ま、まずは行きましょうか」


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