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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Dawn-6

「勝手なことをするな!武器など無くたって私は…!」

言いかけたイナサに

「口閉じてろ!舌噛むぞ!」

その瞬間、大きな衝撃がバイクの車体ごと襲った。バイクは前輪を宙に浮かせたまま、まっすぐに目の前の段差に向かっている。それは道路沿いの雑木林へと続くもので、大和が目指しているものがその先にあった。

「な…!?」

獣のようなうなり声を上げて、バイクは雑木林の柔らかい地面に着地した。大きな車体がやっと通れるほどの間隔で立ち並ぶブナやケヤキの若木が、肌を擦るほど迫っている。

「…!」

右、左と車体を傾けながら進むバイクは、鼠を追って走りまわる猫のようにしなやかに揺れた。イナサは思わず目を閉じて、もっと強く大和にしがみ付いた。男がまた、笑ったような気がした。

もう少しで林を抜けるというときに、目の前に横たわる倒木が見えた。

「ちっ…!」

がくんと車体が揺れて、座席から放り出されようとしているのが解った。

男が舌打ちしたのを聞くや否や、イナサは軽い跳躍でバイクから離れた。ハンドルを握っていた大和はそういうわけには行かず、猛スピードで走っていたバイクもろとも、地面に投げ飛ばされた。イナサは何事も無かったかのように地面に立って、あたりを見渡した。

「おい!」

横たわってうめく男に呼びかける。片足をバイクに挟まれていて、身動きが取れないようだ。

「お前が案内しようとしていたのはここか?」

男の返事は無い。息はあるから、気を失っているか、或いは痛みに口が聞けないのだろう。イナサは迷惑そうにふん!と息をついて、バイクの下じきになっている男の首根っこをつかんで、片足でバイクを持ち上げて引きずり出した。

「ここにどんな武器があるというんだ、答えろ!」

大和は、イナサに手荒く横っ面をはたかれて、ようやく気を取り直した。

「って…なんだよ…優しさの欠片も無いな…。」

ふざけて言った大和の胸倉を掴んで、イナサがあざ笑うように言った。

「人間への優しさが戦いの役に立つならば、考え直してお前に優しくしてやるさ。」

そして手を離して、再び辺りを見回した。

「武器とやらのありかを教えぬと、お前を真っ先に奴に差し出すぞ。」

冷たく言い放つこの女の何処にも、それが冗談であることを示すものは無かった。大和は体を起こして、左足に走った激痛に顔をしかめながら立ち上がった。

「あそこに祠があるだろ?小さな、ぼろい奴。」

大和が指差した先にあったのは、なるほど小さい祠だった。昔はこの地を護る土地神を奉っていた祠だが、今はその神の気配は無い。澱みの気配がこんなに強い時にわざわざこんな小さな祠の寄代を訪れる神がいるとも思えないが。


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