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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Dawn-12

「来るぞ!十一時の方向!」

腰を落として、重心をを低くした男の目には、もうほとんど澱みの姿が見えていないはずだ。イナサは大和の手に自分のそれを添えて、先刻体の中に貯めておいた気を流し込む。

大きく口を開けた澱みは、その巨体に比べたら小エビほどの大きさも無いイナサと大和が行っていることになど少しも注意を払わなかった。さっき散々いたぶってやった狗族の隻眼かつ隻腕の女と、人間が何かを企んだ所で、徒労に終わるのは目に見えていたから。



目前に迫った冥(くら)い穴。地面さええぐろうかという勢いで近づくそれに、身じろぎ一つしないで大和は力をこめた。不意に…

雷が頭に落ちるみたいに、大和の脳天に何者かの言葉が閃いた。



―滅び行く神族に加担する、か弱き人間よ、その意気や好(よ)し!



待ちわびた客を迎え入れる時のような、嬉しそうな声だった。その言葉は大和に理解できない次元のことを話していたけれど、その素直な、むき出しの喜びに触れて、彼の四肢には尋常を越える力が漲った。



その一瞬の後、全ての空気が失われた。大和とイナサは、澱んだ塊の中に沈んだような感覚ごと…切り裂いた。

ごろごろ…という、太鼓の轟く様な音が、澱みの体の何処からともなく聞こえてきた。澱みの体が振動している。必死の一撃はどうやら効いたようだが、息が続かない…もがこうにも、この塊の中で身体を動かすことすら難しかった。澱みの体が膨張し、肺に残ったわずかな空気まで奪われた。

もう駄目か…思った時、後ろから新鮮な空気がなだれ込んできた。そのまま彼らを中心に、澱んだ塊が裂け…目の前で塵になって消えていった。

「は……。」

幻のように全てが消え、嘘のように空気が美味く感じられた。

「消え・・・た。」

力が抜けて、お互いがお互いを抱きしめるような格好のままその場にへたり込んだ。

「はは…あはははは!」

「お、おい…っ!」

呆けたみたいに、間の抜けた笑い声を大和が上げて、地面に仰向けになった。それに引っ張られるように、イナサが大和の身体の上に折り重なる。ひとしきり笑った後、満足げにため息をついた。

「平気か?」

少し心配そうに覗き込む女の、目つきが今は柔らかかった。

「おれさ、居合い一筋で高校まで行ったんだよ…推薦で。」

上空を見つめたまま話す彼の言葉を、なぜかイナサは黙って聞いていた。


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