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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Dawn-11

―さぁ、その触手で私に触れろ。

 お前が私を取り込んだ瞬間…

そして、藻のような、はたまた日の光に照らしてみた血管のような細かく細い触手がいっせいに近づいてきて、イナサを包んだ。どろっとした粘着質の空気が、鼻の穴から身体を侵してゆく。



私が死んだら、飃はまた泣くのだろう。そして、彼の幼い、細君も…

「ああ、飃…お前は間違ってなど、居なかったのだな。」

今ならわかる。彼があれほどまでに、あの娘を大切にしたいと思う理由が。



―イナサさん、私…この村が好きだな…

刹那、あの子の顔が浮かぶ。

―また、来ても良いですか?

ああ、いつでも来るといい、心優しい人間の娘…。私がいなくなった後も、あの村はお前を歓迎するだろう…。

雲が月を覆い隠すように、一切の光がイナサの視界から消えた。もういつでもいい。いつでもこの身を滅ぼすことが出来る。



――さよならだ…。

そして、掻き集めたありったけの気を、自分の身体の中でかき乱し、膨張させ…起爆させようと力をこめた、その瞬間―

「くそったれぇええぇ!!」



不意に綺麗な空気が肺を充たして、イナサは思わず咳き込んだ。自らを抱きとめた力強い腕に、しがみ付いて息を吸う。

「お、お前…!」

逃げたはずの人間が、自分を腕に抱いている。男はイナサを地面に横たえて、再び澱みに対峙した。

「あんまし、“人間”をなめんなや、ネーちゃん。」

沢山の戦いを潜り抜けてきたイナサの目にも、その立ち姿は美しかった。

「戦えるのか、お前…。」

男はうなずいてから、小さく頭を振った。

「だが、あんたにかけてもらった術が切れてきたみたいだ…よく見えねえ。」

イナサはうなずいて、男の後ろに立った。きっと見上げた先には、獲物を横取りされた怒りに低いうなり声を上げる澱み。触手をあらかた奪われて、今は7メートルほど上空に浮かんでいた。その身体が不意に上昇して、周りの空気もさらってゆく。ものすごい砂煙が、澱みに追いすがるように巻き上がった。

生身の目をかばい、布に書いた義眼で行方を追う。澱みは上空で縦に一回転し、スピードをつけてそのまま彼らを丸呑みするつもりのようだ。


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