私の涙、いくらですか?2-6
「いえ、覚えはありません。」
本当にそうなのだろう。
だけど、ただ、ほんの一瞬、彼を知っていると思ってしまった。
「そうですか、失礼しました。」
私がそう言うと、彼は門の横の駐車場まで歩いて行ってしまった。
どうかしてる。本当にそう思う。
絶対に会ったことなどあるはずないと知りながら、どうしてあんな質問をしてしまったのか。
だけど。
彼と出会ったその瞬間から、運命が動き出したことを、
私はまだ知らなかった。