私の涙、いくらですか?2-5
お嬢様、か…大きな子供みたいね。
そんなんじゃ、自分のことも自分で出来なくなるわよ。
それにしても少し複雑。
学校で自分がそこまで影が薄いとは考えてなかった…。
同じクラスになったこともないし、当然と言えば当然か。
「この建物は職員の寮になっているんだけど、たくさん部屋が空いているから、1人1部屋当たるわ。運びたい荷物があったら早めに手配しておきなさい。」
「あ、はい。ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」
私は挨拶をして職員寮を出た。
色とりどりの花が咲き乱れる庭を歩く。
いいにおい。
私は肩をがっくりと落とした。
どっと疲れたわ。だけど、バイトも決まったしこれからなんとかなりそうね。
バスは怖いけど、学校からそんなに遠くもないし…。
まぁ、佐伯樹里亜も学校に通ってるんだから当然ね。
「?」
本邸の方から誰かが出てきた。
男の人だ。
長身で整った顔をした、若い男性。
皺一つ無いスーツを着て、綺麗な姿勢で歩いている。
これから世話になるのだから挨拶した方がいいのだろうか。
そんなことを考えていると、その男性が顔を上げ、私の姿を捉えた。
「初めまして。ここで働くことになりました田村亜矢子です。」
「あぁ、今日面接だと山崎さんから聞いています。僕は社長の秘書の竹村と言います。」
秘書、か。
営業の人かと思ったけど、違うのね。
しかし何か、違和感を感じた。
竹村さんは会釈し、その場を去ろうとする。
「あ、あの…」
「何か?」
私はなぜそんなことを思ったのだろうか。
「どこかでお会いしたこと、ありませんか?」
男性の表情は変わらない。私の方を見つめた後、微笑んだ。
いや、口の端を上げただけの、微笑とも取れない表情。