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『碧色の空に唄う事』
【純愛 恋愛小説】

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『碧色の空に唄う事』-4




家に帰った後も、感情の波はおさまる事を知らず、それどころか起伏は更に激しくなって、私を泣かした。キツい時には声をあげて泣いたし、軽い時でも鼻をすする事をやめられずにいた。
何をしていても何かしらと思い出し、頭の中から彼を追い出す度に、私はまだ宵が好きなのだと、実感させられる。当初の予定と大幅に違う、心の暴走。
好きなのにとか、愛しているのにとか、そんな理不尽な当たり前が頭によぎっては消えていき、わがままな自分を呪いたくなる。
千鶴がいなくなっただけで、私はこんなにも弱い人間になった。元々弱い私が、更に弱くなっただなんて、救いが無い。ただただ、キツい。
狂うって単語が私にぴったりな様な気がしてきた。私は今、狂っている。
ネガティブで、エゴイズムに満ちた私の願いが届かない事を知っているのに、項垂れる。
言う事の訊かない私の心臓は、時折、大きな音をたてて私を攻撃した。全然が脈うち、私の物では無い様な錯覚をうける。
私は急に、自身の身体が叫んでいるみたいな感じがした。言葉にならない酷い痛みが、想いが、祈りが、愛が、全身を通して発信する。その誰かに向けて発せられるメッセージは、私自身にかけられている様にも思えたし、今朝の見知らぬ歌声にかけられている様にも思えた。
心の叫び。
暖か過ぎて、哀しい歌声。
あれは良かったな…

薄れていく意識の中、耳の奥の奥から、あの歌が聴こえる気がする。
光みたいに綺麗な声色は、確かに私を慰めていた。


* * *

今だってさ、千鶴の事が好きだよ?でも…
でも駄目なんだよ、きっとそれは。千鶴だってわかってるだろう?
僕と千鶴のベクトルは、同じ方向には向かっていても、交わる事は無いんだから。
――うん。…うん。
僕だって――僕だって辛いよ。
だって、千鶴は。
――千鶴には――
―――ごめん、なんでもないや。
とにかく、僕らはもう…
――いつまでウジウジしてるんだよ?…しかたないだろ?
――大丈夫。
心配しないで。
約束――ううん、なんでもない。
いつも京子の事思ってるから。
…っえ?
そんなんじゃ無いよ、これが、この選択が、一番京子の幸せだって思ったから。

――しかたないんだよ

* * *


宵が死ぬ前日の夜。
あの夜は、綺麗に欠けた三日月が天にあって、空気は少し清んでいた。息を吐くと白むぐらい寒くって、肩よせあいながら歩く道には、私達二人しかいなかった。

私と宵と。
たった二人しか。


◆ ◆ ◆


次の日の朝、目が覚めて携帯電話を見てみると、4回も千鶴から着信がきていた。あの後、泣き疲れて眠ってしまった様子で、全く気づかなかったみたいだ。
時刻はまだ5時半を回った所で、外を見てみてもまだ真っ暗だ。
私は酷く喉の乾きを覚え、キッチンへと向かった。しかし、冷蔵庫の中には飲み物すら入っておらず、仕方なく近くのコンビニへ買いに行く事にした。
真っ暗な道に、白い電灯がほの暗く光っている。少し心許ないその光は、しかし綺麗で、力強かった。
どうしてだろう…
つい数時間前にあった感情の波はとても落ち着きを取り戻していて、曇りの無い眼で全てを見る事ができた。


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