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『碧色の空に唄う事』
【純愛 恋愛小説】

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『碧色の空に唄う事』-3

* * *


急に泣きたくなる時ってある。
とにかく、今がその状態にある私に、その声は酷く染みた。真っ白なカーテンがじわじわと陽に焼けていくみたいに、ゆっくり、緩やかに。
涙がこぼれる。
止めようと必死で試みてみるのだけれど上手くいかない。どんどん、後から後から涙の大粒が頬を伝い、顔を濡らしていく。その絶対的な何かを持った力は、あらがう事の出来ない私を容赦なく攻撃し続ける。
暖かい歌声なのに、辛い。けど、聴いていたい。
得体の知れない強力な引力に、私は身を委ねる事しか出来ないでいた。




「ごめん!っんとにごめん!謝る!なんかオゴる!オゴるから!」
気付いた時には既に遅し。約束の時間を30分もオーバーしているその理由が、公園で寝ていた、後に感傷に浸っていた、だなんて絶対に言えない。謝る以外に何も出来ない。
正直、千鶴はそんな事で怒らないのは知っているのだけれど、明らかに私に過失があるのだ、謝らない訳にはいかない。
「あ〜わかってるって。大丈夫だよ。私も今来た所だし。っじゃ、行こっか。」
そう言って歩きだす千鶴。…ものすっごい頼りになる。

『まだ 綺麗なままの雪の絨毯に二人で刻む 足跡の平行線
そうさ夢物語 願わなくたって笑顔は教えてくれた 僕の行く道を
君と出会えて本当に良かった 同じ季節がめぐる
僕の右ポケットに しまってた思い出は やっぱりしまっておくよ 雪の無い道に... 』

BUMP OF CHICKENのスノースマイル。千鶴の十八番。
泣くと分かっていて、千鶴に唄ってとお願いしたのだか…案の定、泣いた。見事に。
そりゃもぅ、見事に。
「あぁ〜、ほら、泣かないでってば!唄いにくいじゃん、私」
「んん゛〜ぐすっ。だって、ズズッ、聴きた、かったん、だも、んっ」
「あ〜もう鼻かんで。ほらティッシュ!いい加減忘れなよ。ほらほら、次京子だよ。はい、マイク。思いっきり唄って忘れちゃいな」
「ん、ありが、ズズッ、と」
「…で、『未来予想図?』ね。で、また泣く…はぁ。」
唄い終わった時はもちろん、唄ってる最中でさえ、私の涙は止まらなかった。
「…はぁ」
千鶴は今日何度目かのため息をついた。

私自身、こんなに涙脆いとは思ってもいなかった。こんなに引きずっている自覚は無かったし、今日すっぱり切るつもりで来たのに。いつまでも、心には宵が離れない。
カラオケに行ったのは良いけれど、宵と二人で来た事を思い出して、またブルーになってしまった私。千鶴もいい加減、疲れた様子だ。
結局今日一番始めに訪れたカラオケは、泣き通してしまった。千鶴がしんみりしないで居てくれたの幸いで、たぶん私一人なら、耐えられ無かっただろうと思う。その後も色々と予定していたのだが、千鶴が気を利かせてお開きとなってしまい、最寄りの駅の前で私は千鶴と別れた。
「無理するな? 良いことあるって。なんかあったら電話して来なよ?何時でも待ってるから」
別れ際に、最高の捨て台詞を言って行った千鶴は、とても恰好良かった。


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