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『碧色の空に唄う事』
【純愛 恋愛小説】

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『碧色の空に唄う事』-2



千鶴との約束まではまだ2時間もあるので、とにかくその辺を歩き廻る事にした。
休日と言う事もあってか、人は中々に多くて、結構道にごった返している。縫うように人混みを抜け、街のほぼ中心に位置する公園にまで足をのばした。
そういえばここに来るのも久しぶり。宵と付き合っていた頃は良く二人で訪れたものだ――思えば、宵との思い出は、ここから始まったんだな。
知らず知らずに、宵の事を思い出していた。
自然と頭の中を支配する元カレの顔が浮かんで来て、自分自身にうんざりする。世界が灰色に見える。その中で宵が笑ってる――
「っぷは」
私は、見切りをつける為にため息をついた。 もう忘れようって決めたのに。
こんなにも心は宵でいっぱいなの。
なぜ?
――こんなのは、卑怯だ。
コントロールなんて、出来やしない。突然顔を出しては、私の心のあちこちを無茶苦茶にしてどこかにいってしまう。
卑怯だ。

街中にしては大きい公園で、真ん中にある舞台みたいな所で学生が楽器を演奏してるのが見えた。別に誰かに聴いて貰おうとやっている気配は無く、完全な練習なんだろう、同じ所を繰り返し演奏している。
緩やかなギターと暖かなハーモニーが奏でる空間は、それだけで公園を際立たせている。とても素敵だと思った。
私は日溜まりのベンチに座り、演奏されている曲にしばらく耳を傾ける事にした。聴いた事のある曲だ、確かすこし昔の曲だったはず。
とてもゆっくりなペースの曲で、どこか秋を想わせる歌詞は眠気を誘う。キラキラひかる木漏れ日がなお一層私を夢の世界へと向かわせる。
正直、眠たい。昨晩、泣き明かしたせいだ。またも宵の顔が浮かびそうになりそうになる。
あぁ、このまま寝てしまおうかな。いちいち宵を思い出してしまうし、まだ時間もあるし…――

――はぁ。
ほとんど眠りこけていた私を現実に引き戻したのは、何処からか聞こえた大きなため息だった。
一瞬だけ、知らず知らずの内に私がため息をついたんじゃ無いかと疑うほど、現実的で、身近だった。ほとんど耳の隣で聞こえたと思ったぐらいに、リアルだった。
でも、それは何度も何度も聞こえて来て、そこでようやくこれが息継ぎだと言う事に気付いた。歌を唄う時に、節と節の間にする僅かな息継ぎ。
私はそれを、ため息だと勘違いしたのだ。
何処からもたらす音なのかがわからない。辺りを見渡しても、それらしき人は見られ無い。さっきまで演奏していた学生も、いない。
次に聞こえてきたのは、たぶん歌声。中性的で、しかしそれは確実に男性のそれであって、芯があって、幅がある。
――歌声?
私は首をかしげた。
私は何故、これを歌声だと思ったのだろう。何故、歌声なのだろう。
表現するなら叫びに近い様な気がする。
心の叫び?
そうだ――これは心の叫びの様な物だ。

私の酷く冷めた心奥底で、確信めいた何かがキラリと光って消えた。


* * *

わかってる、わかってるんだ。僕じゃ京子を幸せになんて出来ないんだ。
――違うよ、そうじゃない。
…えっ?違うってば。
だから違うって言ってるだろ。
京子は京子だよ。今でも、これからも、僕の一番の素敵な人だよ。
だからって…――え?
そんなんじゃない。
京子の事は好きだよ。でも。
違うって。
あぁもう、じれったいなぁ。
しかたないんだよ。こればっかりは。
…ごめん。
…ううん。京子は悪くないんだ。

――大丈夫だよ、きっと。約束しただろ?
だからきっと。

大丈夫だってば。


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