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「とある日の霊能者その」
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「とある日の霊能者その2」-1

「ふぅ……」
下駄箱で靴を履き替え、体育会系の先生に注意されながらも、「廊下を走るな!」「はーい!すいませーん!」なんとかギリギリ間に合った。教室の自分の席に着いて、ようやく一息。
「おはよう。今日はギリギリじゃん?」
「まあね」
「あ、それより知ってる?このクラス、転校生来るんだって。しかも男だよ」
「へぇ〜……」
「へぇ〜……じゃないでしょ!涼香、あんたもそろそろ男に興味持ちなよ」
「持てないよ。だってボク、元々興味ないんだから」
「かぁ〜……ったくこのボクっ子は」
そんなくだらない会話をクラスの皆(とは言っても女子オンリー。共学なんだけどね)と交わしている時、
「席着けよー。ホームルーム始めっぞ」
ボクらのクラス担任・七原先生(女)が教室の戸をガラッと開け放ちながら入ってきた。その豪放磊落な性格がウリだったりする。
「……中には知ってる奴もいるだろうけど」
勿体ぶるかのような七原先生の口振り。実際勿体ぶってるんだけどね。
「転校生が来た。……入りな、仲里君」
「……はい」
七原先生の呼び掛けに答え、教室に入ってきたその少年は、どうやら仲里君……とかいうらしい。さらりとした少し長めの黒髪をしている。教壇に立って、少し緊張気味に顔を固まらせていた。
黒板に白いチョークで書かれた彼のフルネーム。“仲里拓也”……なかさとたくや君、かな。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。
「仲里、拓也と言います。これからどうぞよろしく……」
緊張で震えている声。それでもどこか澄んでいるよう。
ルックスは悪いわけじゃない。でも特別いいわけでもない。別にイケメンじゃないけど、キモメンでもない。いわゆるフツメンなのに、どうしてだろう……。
「じゃあ……席は水上の隣りな。水上もいいよな?」
「は……はいっ!」
「じゃあ、仲里君、今返事した子の隣りな」
「分かりました」
どうして彼を、こんなにも意識してしまうの?
仲里君の、席に移動する様から目が離せない。転校生を珍しがって見る一生徒と見なされたらしく、不審には思われなかった。
どうしてこんなにも、彼の一挙一動が気になってしまうの?なんてことはない、ありふれた人なのに。
あれ?
まさか?

ボクは、彼に一目惚れ?

「隣り、よろしく」
彼が席に着き、ボクに声をかけた。軽く手を上げ、微笑みながら。でもボクは、
「ぁ……ぅ……ん……」
なんて、掠れた声しか出せない。それが彼に聞こえたかどうかも分からない。
やばい。本当にやばい。
マジ惚れらしい。
今まで17年間生きてきて、一目惚れなんて初めてだった。
「えー……今日は連絡事項はないな。よし、んじゃあホームルーム終わりな。一時間目の用意しろよー」
七原先生(28歳にして独身)が出席簿をばしばし教卓に叩き付ける。それが合図であるかのように、皆は授業の準備を始めた。一時間目は国語。七原先生(彼氏はいるらしい)の担当だ。
「っと、仲里君は教科書とかまだなかったな。水上、見せてやってくれ」
……。
………………………………………?
しばらく、呆けた。
大したことではないはずだ、教科書を見せるぐらい。大したことではないはずだ。
なのに、ボクの鼓動は高鳴る。すごくすごく。
ちらりと横目で仲里君を見てみる。


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