年の差-5-3
『陸は淋しがり屋だから、だってさ』
呆れとも、怒りともとれるニュアンスで、先生は言った。
「初めまして、篤からは話を聞いています。中島悠と言います。」
見た目ほど、弱ってはないらしい。
意外にも声ははっきりしていた。
「北野菜海と申します。…なんか、変な感じですね」
くすっと、笑う。
「そうね」
悠さんもにこっと笑う。
元気だったら、大声で笑いそうな、明るい笑顔だ。
「悠…」
後ろから声がする。
陸だった。
陸は、私の横に並んだ。
「悠…何が…」
まだ、状況が読めていないのか、上手く言葉に出来ていない。
「陸、ちょっと出るね」
私は陸の肩をぽんとタッチし、部屋を出ることにした。
陸が他の女性を、名前で呼んでいるところを初めて聞いた。
それは、どうしようもないくらい、私の胸を締め付けた。
痛い。
辛い。
それだけじゃない、この感情。
どうやって、表現したらいいのか分からない。
自分のボキャブラリィの少なさに、情けなく感じる。
自分の気持ちを表現出来ない。
自分を上手く出せない。
嫌だよ。
陸、行かないで。
初めて、嫉妬と言うものを知った。
案外、陸のことを諦められるかもと思っていたが、無理だった。
人に対して、執着なんてしないと思ってた。
だけど、今は、離れたくない一心だ。
私は入院患者が、面会の時に使うフリースペースで、そんなことを考えていた。
周りには誰もいない。
ここにあるのは、机と椅子。自販機ぐらいだった。
机に突っ伏して、泣いてしまおうか?
いっそのこと、帰ってしまおうか?
そう思い、立ち上がった時、
「帰るのか?」
後ろの方から、声をかけられる。
振り向くと、先生がいた。
「今日はもう、失礼しようかと…」
ぼそぼそと言う。
違う。
こんなの私じゃない。
こんなに弱いなんて、私じゃない。
私はいつも強くて、肝が据わってて…
「無理すんな」
振り向くと、先生がいた。
無理なんかしてない。
私は冷静にしなきゃいけないことを行っただけ。
大丈夫。
私は強いから。
陸がいなくても、大丈夫。
大丈夫…