社外情事?3〜堂々巡りと結論情事?〜-6
「き、気にしないでくださいっ。おかげで、女性の事について貴重な意見を頂きましたからっ」
「…そう…でしょうか?」
「はいっ、そうですっ」
不安げに問いかける湊に、上擦った声で誠司は答える。その様子を湊はしばらく見ていたが、やがてほっとしたように息をつく。
「よかった……変な人と思われたらどうしようかと…」
息とともに、安堵の言葉が湊の口から漏れた。その呟きを聞き取った誠司は、少しだけ驚きの表情を見せる。
「いえっ、湊さんみたいな人を変と思う事なんて、俺には全然できませんって」
「…本当ですか?」
「本当ですよっ」
「……嬉しいです」
湊の顔に、満面の笑みが表れる。
淑やかな花を思わせる美しさをもったその表情に、誠司は思わず見とれてしまう。
「……」
言葉が出ず、そのまま数拍。
「……っ!」
そこに来てようやく、誠司は我に返る。途端に、湊に見とれてしまっていた自分が恥ずかしくなり、慌てて目を下に向ける。
「…あ」
――そして、つゆを吸って伸び始めていたそばが目に入った。
「……しまった。そばの事、忘れてた」
思わず呟いた言葉に、湊もはっとなる。
「…私も、です。少し伸びてますね…」
「…早く食べましょうか」
「そうですね…」
互いに頷き合う。二人はこれ以上そばが不味くならないうちにと、さっさと残りのそばを食べる事にした。
――ただ、湊はそばをなるべく急いで食べながらも、時折誠司の方を上目遣いに見つめていた。
無論、誠司はそんな事には全く気付かなかったが。
――更に時は流れ、場所は再びKIRISAWAカンパニー営業部・営業一課。
「……」
誠司は再び考えにふけっていた。
しかし、その思考は堂々巡りを脱している。
――何故、五日もの間悩み続けていた誠司は、突然堂々巡りを脱したのだろうか。
その理由は、おそらく健介と湊であろう。
悩みは、幾ら複雑な事情が絡んだとしても、根本は同じ。人に話したり、人から助言を貰ったりすると、自ずと答えが導き出されていくものである。そして、何かに気付く事で、不意に答えが生み出される事も有り得るものでもある。
誠司は内容を話しはしなかったが、健介からは助言を得る事ができた。もっとも、その助言はそれだけでは堂々巡りから脱するには足りなかった。
しかし、そこへ湊が――本人が意図しなかったとは言え――「恋は女性を盲目にさせる」という事を教えた。それにより誠司は、今更のように「玲が本気である事」に気付けたのだ。
その結果、誠司は「堂々巡りを脱した状態」となっている。後は、付随する幾つかの懸案についての答えを出せばいい。
「…おい、誠司」
不意に声がかかる。しかし、王手に迫ってきた誠司の思考はその声を遮断し、刺激として全く取り入れない。
「……とうとう返事なしかよ」
全く反応しない誠司に、声をかけた張本人である健介は頭をかく。
「…まあ、こいつなりに納得のいく答え出そうとしてんだろうし…ほっとくか」
誰に言うわけでもなく、呟く健介。彼は思案にふける誠司を一瞥すると、やれやれと肩をすくめながらきびすを返す。
そして、自分を待っているらしい同僚達に顔を向け、少し声を張り上げた。