飃の啼く…第20章-2
「颪さんを見習ってよ!」
カウンターに立つ時のギャルソン姿もかっこいいけど、颪さんの私服はそれはセンスが良い。もともと色が黒くて、モデルのような顔立ちをしているから余計に様になる。飃だって、本気になれば颪さんに負けないくらいモデルなみになれると…要は、久しぶりの遠出だったから、普段の格好ではつまらないと思っただけなのだ。だって、私だけ気合を入れてたら変だし…。
とはいえ、事情を話して爆笑しながら飃を連行した颪さんの見立てで、そろえてもらった服は良く似合っていた。
自分を見つめる私の視線に、今気づいたような振りをして飃がこっちを向く。彼の顔の半分が、朝日に照らされて、ウェーブした髪の毛が金色に光っていた。「?」を投げかける彼の視線には答えないで、そのまましばらく見入ってしまう。えへへ…なんて笑う姿を、部活の皆に見られたら呆れられるだろうな。とはいえ、みんなだって恋人を前にすれば同じようなことになるに違いない。だから、「妖怪八条」と呼ばれる私だって、例外になっていいはずないのだ。
新幹線の、悲鳴のような通過音に目を白黒させる飃を見て笑い、窓から流れる景色の速さに感嘆するのに微笑み、向かいの席から意味ありげな目線を送ってくる彼を牽制しながら、私たちはあっという間に目当ての場所に到着した。
知らない土地の空気は、空気の違いがわかるほど繊細ではない私の鼻にとっても新鮮だに思えた。夕方に始まる祭りの気配に、この町全体が浮き足立っているような感じがした。提燈が町中の軒という軒にぶら下げられて、明かりをともすのを今か今かと待っている。満開に咲き誇る桜でさえ、今日は昼よりも夜に、沢山の照明で着飾るのだろう。露店が立ち並ぶ予定の通りは、初めて歩く私にもわかるほど整然としていて、同じく通りを行く人の心を期待で躍らせた。
夜になったら、飃と二人でここを歩けるかな…デートとか、そういったものに縁のない私たちの生活だけど、今日くらい、はしゃいでも…いいよね…?
「ねえ、つむ…」
そう思って振り向いた私の表情は固まった。
「飃さん〜っ!」
整理整頓しよう。
1、飃に抱きついているのは私ではない。
2、私が知ってる誰でもない。
3、しかも男でもない。
4、飃が、私の知らない女に抱きつかれている。
5、そして、飃に抱きついているのは一人ではない。大勢だ。
「な、な…?」
声まで固まってしまった私の目の前で、その女たちは馴れ馴れしく飃の名前を読んで…で…